「新入りの分際で偉そうな発言すんな」――元同級生の男が、妻とイチャつきながら俺を袋叩きにさせた。妻は「早く離婚して涼と結婚したい」と平然と言い放ち、男は「鮫島会の組員である俺がお前を幸せにしてやるよ」と嘲笑った。俺は殴られながらも、その言葉を聞き逃さなかった。彼らは俺の正体を知らない。俺はただの岡崎組の下っぱじゃない。スマホを取り出し、俺はある人物に電話をかけた。「父さん、今いる幹部と下っぱ…

「新入りの分際で偉そうな発言すんな」――元同級生の男が、妻とイチャつきながら俺を袋叩きにさせた。妻は「早く離婚して涼と結婚したい」と平然と言い放ち、男は「鮫島会の組員である俺がお前を幸せにしてやるよ」と嘲笑った。俺は殴られながらも、その言葉を聞き逃さなかった。彼らは俺の正体を知らない。俺はただの岡崎組の下っぱじゃない。スマホを取り出し、俺はある人物に電話をかけた。「父さん、今いる幹部と下っぱ...

「新入りの分際で偉そうな発言すんな」

その言葉とともに、元同級生の涼が妻のマリアとイチャつきながら、周りの男たちに命令して俺を袋叩きにし始めた。涼の口から「鮫島会」の名前が出た瞬間、俺は蹴ってきた男の足を掴み、逆の足を払って転ばせると、言い放った。

「下っぱかぶ連中を全員呼べ」

俺の名前は木佐木優馬、31歳。妻のマリアと3歳の息子の友人と暮らしている。去年会社員を辞めて、ヤクザの岡崎組の構成員になった。入り立ての俺は、組の中でも下っぱで、雑用係みたいなものだ。

マリアとは友人が生まれた頃から関係が冷め切っていて、俺がヤクザになると伝えた時も、賛成も反対もされなかった。

「私が使えるお金が減らなきゃ、仕事なんて何だっていいよ。じゃあ私、出かけてくるから」

仕事から帰った俺が転職の話をした日の夜も、マリアは聞かずに出かけていった。マリアは専業主婦だったが、家事は一切やらず、家の中はいつも散らかり放題。育児も必要最低限で、友人と遊んでいる姿は見たことがない。友人が生まれたばかりの頃は、そのうち変わるだろうと思って我慢していたが、3歳になった今も全く変わる気配はなく、むしろ悪化する一方だった。

俺は仕事に行く前も帰ってきてからも家事や育児に追われていたが、友人のためならどんなに疲れていても頑張れた。マリアもそのうち母親の自覚が芽生えて落ち着いてくれるだろうと思っていた。だが、この考えが甘かったことを、俺は知ることになる。

ある日、俺はいつもより多くの雑用を押し付けられ、帰りが遅くなってしまった。

「ただいま」

玄関で声をかけても返事がないのはいつも通りだが、今日はリビングから騒がしい声が響いていた。

「今日、来客の予定なんて入っていたかな?」

首をかしげながらリビングに行くと、中にはマリアと数人の男がいて、酒を飲みながら騒いでいた。小さい子供がいる家で、こんな時間に騒いでいるなんて、常識がないのだろうか。俺はため息をつきながら、見るからに酔っ払ったマリアに声をかけた。

「ただいま」

「あ、優馬。あんた遅いよ。あんたが帰ってこないから、出かけられなくて仕方なく家飲み始めちゃったじゃない」

「そうか。友人は?」

「とっくに寝てるわよ。全く、せっかく領事と過ごせる大事な時間だっていうのに、邪魔が入ってなきゃとか最悪よ」

母親とは思えない発言をしながら、マリアはソファーに座っている男性にすり寄る。男性もそんなマリアを拒むことなく、笑みを浮かべながら肩に腕を回して自分の方に引き寄せた。

夫の目の前で親密な様子を隠そうともしない。俺は2人に対して怒りよりも呆れの感情の方が大きく、マリアにもう愛情を感じていないことを自覚した。

「友人が起きるから、出かけるならさっさと出て行ってくれ」

俺が静かに告げると、男性の方がニヤつきながら返してきた。

「おいおい、お前、俺にそんな口聞いていいのか? そんな年で弱い岡崎組の下っぱやってるダサい優馬君よ」

「あんた、誰だよ」

「同級生の顔も忘れたのかよ。白痴なやつだな」

同級生。俺は驚いてまじまじと顔を見つめた。すると、ある人物の記憶が蘇ってきた。ピアスの数が多く、髪型も違って年も取っているが、どことなく面影が残っている。

「真部涼か」

涼は俺の高校時代の同級生で、不良グループの一員だった。俺は高校時代は目立たず過ごしていたため、涼と関わりはほとんどなかったが、悪い噂だけは知っていた。女癖が悪く、あちこちに彼女がいて、弱い者いじめが大好きな最低野郎だ。自分より強い人間には媚びを売り、弱い人間を数人掛かりで袋叩きにして、グループ内の自分の地位を守っていたと聞いている。

「思い出してくれて嬉しいぜ。高校の時は絡みがなかったからな」

「で、他人の家で何やってんだよ」

「見りゃわかるだろ。お前の奥さんと楽しくやってんだよ。鈍いやつだな」

「小さい子供がいるんだ。やるなら外で楽しんでくれよ」

「何よ。私のことなんて興味ないような態度しちゃって。この人、夫として最低じゃない?」

「夫の目の前で他の男と付き合うお前の方が最低だと思うけど」

「しょうがないじゃない。涼に対する愛が溢れて仕方ないんだもの。とりあえず帰って来てからお前とは話すから。今は全員家から出て行ってくれ」

「何よ。ヤクザの下っぱのくせに、私に偉そうなこと言わないでよ。涼、こいつ黙らせてよ」

俺の言葉に怒ったマリアが涼に言うと、涼は一緒にいた数人の男に指示を出して俺を取り囲んだ。

「新入りの分際で偉そうな発言すんな」

涼の発言で、こいつもヤクザなのだと分かったが、岡崎組の顔は見たことがない。だが、俺のことを新入りだと知っているということは、岡崎組と関わりがある組の一員なのだろう。

「お前ら、2度と俺に逆らえないようにボコボコにしてやれ」

涼が言い放つと、男たちが一斉に俺に殴りかかってくる。狭いリビングで大乱闘になれば、上の部屋で眠っている友人が起きてしまう。そう思った俺はやり返すことはせず、致命傷を避けて受け身に回り、袋叩きにされ続けた。

「何だよ。やり返すこともできねえのか。やっぱりお前は腑抜けだな」

「やっぱり私には涼みたいな強い人じゃないと釣り合わないわよね」

「俺がもらってやるから、お前は黙って離婚しろよな」

「早く離婚して涼と結婚したいわ」

「鮫島会の組員である俺が、お前を幸せにしてやるよ」

「ありがとう、涼」

俺を袋叩きにする男の後ろから、涼とマリアの会話が聞こえてくる。本当に言いたい放題言ってくれるな。だが、俺は涼が自分の組の名前を出したことを聞き逃さなかった。

俺は目の前に飛んできた男の蹴りを受け止め、足を掴む。今までされるがままだった俺の突然の動きに、男は驚いたように固まった。俺は足を掴んだまま地面についている方の足を払い、その場に男を転がした。そして、ポカンとした顔で見ている涼とマリアに向かって言い放った。

「下っぱかぶ連中を全員呼べ」

「は? お前、何言ってんだ? 殴られすぎておかしくなったか?」

「いいからさっさと呼べよ。鮫島会の連中を」

「なんでお前なんかに言われて呼ばなきゃなんねえんだよ。鮫島会のこと分かってんのか? ここら辺一体を仕切っている組で、俺が今いる岡崎組は鮫島会の傘下だろう」

「そうだよ。だから傘下の新入りの下っぱのお前なんかが、鮫島会を呼びつけることなんてできねえんだよ。バカが」

「ごちゃごちゃ言ってねえで呼べよ。何、お前呼べないの? 本当に鮫島会の人間か?」

「俺は間違いなく鮫島会のヤクザだ」

「ふざけたことを抜かすな」

「だったら早く呼べよ」

「そ、それは…」

「いいや、俺が呼ぶ」

「はあ? お前、何言って?」

俺は涼の言葉を無視してスマホを取り出し、ある人物に電話をかけた。

「あ、父さん。遅い時間だけど、うちに来てくれない? あと、今いる幹部と下っぱをうちのそばにある空き地に呼んで欲しいんだ」

「何だ? 何か問題か?」

「まあ、そんなところ」

「父さんには家で友人のことを見ていて欲しいんだ。俺はあっちに行くからさ」

「孫の世話ができるなら大歓迎さ。何かおもちゃでも持ってくか」

「いや、もう寝てるから、起きちゃったら相手してくれるだけでいいから」

「そうか。じゃあ今から向かうわ」

俺は電話を切ると、わけが分からないといった様子の涼とマリア、男たちに向き直った。どうやら今の電話の会話はこいつらにはあまり聞こえていなかったようなので、俺は涼たちに告げた。

「そういうわけだから、親父が来たら近くの空き地に移動な」

「はあ? なんで俺らがお前なんかの言いなりにならないといけねえんだよ」

「だって、子供1人家に残して行くわけにはいかないだろう」

「いや、そうじゃなくて、なんでわざわざ空き地に行かなきゃなんねえんだってこと言ってんだよ」

「マリア、離婚したいんだろ? 空き地に来れば離婚届にサインして渡してやるよ」

「え? あんた、離婚届持ってんの?」

「ああ、そのうちこうなることは分かってたからな。もう少し大きくなるまでは母親が必要だと思って我慢していたが。涼、ちょうどいいじゃん。離婚届もらえれば明日には離婚できるし、行こうよ」

「まあ、マリアがいいならいいけどよ」

涼たちと話していると、玄関のチャイムが鳴り響く。俺がリビングを出て玄関のドアを開けると、そこには俺の父親とスーツを着た男がいた。

「父さん、遅くに悪いね」

「気にするな。早速上がらせてもらうぞ」

「うん。飲み物とか好きにしていいから、友人をよろしく」

「ほとんどのやつは空き地に行かせたが、数人は家の前に待機させてるから、一緒に連れて行け」

「わかった」

俺が父たちをリビングに案内すると、リビングにいた涼と男たちが父の顔を見て一瞬で凍りついた。

「組…組長…」

「あ? 誰だ、お前?」

軽蔑な表情を浮かべる父に、後ろにいた男が耳打ちする。

「何だ、お前? うちの組のもんか? なんで息子の家にいる?」

「え? あ、む、息子さんですか?」

「そう、こちらは俺の父で鮫島会の組長、渋川は正だよ」

「え、お前、岡崎組の新入りなんじゃ…」

「そうだけど。次期鮫島会の組長として現場を知るために、修行も兼ねて傘下の組に入れてもらったんだ」

「はあ? って、苗字だって…」

「ああ、木佐木は母の姓だから。最初はヤクザと関わらないつもりだったから、俺は母の姓を使ってたんだよ」

そう、俺の父親は鮫島会の現役組長で、俺が入った岡崎組は鮫島会の傘下の組だ。元々俺は父の組を継ぐつもりはなく、高校卒業後は一般企業に就職した。しかし、鮫島会に入った俺の兄から連絡があり、組に入ってほしいと頼まれた。兄は次期組長として修行を積んでいたが、性格が穏やかで喧嘩も弱い兄は、自分がヤクザの組長には向かないと悟ったらしい。下からの尊敬や信頼を勝ち取らなければ、組長になったところで組を仕切ることはできない。兄に引き換え、俺は自分から喧嘩を売ることはなかったが、売られた喧嘩では負けたことがなかった。負けた相手も、まさか普通の大人しいやつに負けたとは言えず、俺の名前が知れ渡ることはなかったので、高校の時も静かに過ごすことができた。

兄から頼まれた俺は考えた後、ヤクザになることを決意した。だが、今まで組に関わることなく生きてきた俺が急に鮫島会の次期組長として組に入るのは、組の混乱を招くとの父の考えで、修行も兼ねて傘下の岡崎組に入ることにしたのだ。俺の正体を知っているのは鮫島会の幹部と岡崎組の組長と幹部だけだ。父はマリアとの結婚を快く思っていなかったから、マリアに父のことを話したこともなかった。

俺が父に事情を説明していく間、涼たちの顔色はどんどん悪くなっていった。

「お前、なんでこいつが組長の息子だって言わなかったんだ?」

「仕方ないじゃない。私だって知らなかったんだもの」

俯きながらこそこそ話す2人を父が睨みつけると、2人は小さな悲鳴を上げて黙り込んだ。

「なるほど。状況は分かった。それでお前は、自分でこの始末をつけたいんだな」

「そうだね。こいつらが逃げ出さないように、空き地に全員呼んでもらったんだ。俺1人じゃ、こいつらがバラバラに逃げたら捕まえられないからね」

「そうだな。じゃあ俺はここにいるから、何かあったら連絡しろ」

「分かった。じゃあ、空き地に移動しようか」

俺が涼たちに冷たく微笑むと、涼たちの顔から一気に血の気が引いていき、真っ青になった。組長の手前、逃げ出すこともできなくなった涼たちは、おとなしく俺の後に続いて家を出た。外で待機していた組員たちには涼たちを取り囲んでもらい、逃げられないようにしながら俺たちは空き地へと向かう。

空き地に着くと、そこは鮫島会の組員たちで埋め尽くされており、俺たちが空き地に入ると人だかりが割れて道ができる。俺たちができた道を進んで空き地の中央にたどり着くと、周りにいる組員たちがぐるっと俺たちを取り囲んだ。

「次期組長、来られる奴には声をかけて呼び集めました」

取り囲んだ組員たちの間から若頭の鈴木が進み出て、俺に報告する。

「悪かったね。突然召集をかけて」

「いえ。それで、これは一体どういうことですか?」

俺が若頭に事情を説明すると、若頭の眉間に深いしわが刻まれる。そして若頭は俺の後ろで震えている涼たちに近づき、鋭い視線で睨みつけた。

「お前ら、確か半年前くらいに組に入った下っぱだよな。こんな奴が次期組長に手を出して、ただで済むと思っていないよな」

「す、すみません。まさか組長の息子だとは知るよしもなく…」

「知らなかったで済む話じゃねえんだよ。それに女にも手を出したって」

「それは女の方から飲み屋で俺に言い寄ってきたんです。悪いのは女の方なんですよ」

「ちょ、ちょっと涼、嘘言わないでよ。涼が私に声かけてきたんじゃない」

「わけねえだろ。俺には愛する妻も子供もいるんだ。お前なんか相手にするわけないだろうが」

「え? 何? 涼、結婚してんの? 私が離婚したら私と結婚するって言ってたじゃない。嘘ついたの?」

ギャーギャーと見苦しい言い争いを始めた2人を、呆れたように見下すと若頭は俺に声をかけてきた。

「こいつら、どうしますか? 沈めますか?」

「沈めてもこっちには何の得もないからな。精神的苦痛の慰謝料として、1人1億ずつ払ってもらうか」

「そ、そんな大金払えませんよ」

「なら体の一部を売って払うか」

「勘弁してください。俺には妻も子供もいるんです。俺の帰りを待ってるんです」

「妻も子もいるのに、人の妻に手を出したお前を許せるか」

「それは…」

「どうしても売るのが嫌だって言うなら、組でコネ使ってやるから、稼いだ金を全部慰謝料の支払いに回せ」

「そ、そんなことしたら生活が…」

「2つに1つなんだよ。さっさと選べ。それからマリア、お前はさっさとこの離婚届にサインして出ていけ。あと離婚の慰謝料は5000万だ」

「はあ? そんなの嘘でしょ? 聞いてなかったの? 私は涼に騙されただけなのよ」

「どっちが悪いとか関係ない。お前が浮気をした事実は変わらないし、自分の子供を大切にできない母親なんていない方がマシだ」

「そ、そんなこと言わないでよ。私のことまだ少しは好きでいてくれてるんでしょ。だから今日まで離婚なんて言い出さなかったのよね」

「友人のことを思って切り出さなかっただけだ。友人の害になることが分かった。今、お前と一緒にいる理由はない。早くサインしろ」

マリアはその場に泣き崩れたが、取り囲む組員たちからの圧力に怯え、震えながら離婚届にサインした。選択を迫られていた涼たちは、稼いだ金を全て慰謝料の支払いに当てることを渋々了承し、誓約書を書かされた。

「じゃあ、後のことを頼んだよ。俺は子供が心配だし、家に帰るから」

「大丈夫ですよ。組長はお孫さんのこと、できますから」

「まあ、それはそうなんだけど、出来合いのあまり余計なことするかもしれないからさ。父さんが組に戻ったら、こいつらの働き口の手配よろしく。あと、せっかく皆を呼んだんだから、1人1発ずつこいつらをボコっといて」

「わかりました」

若頭が俺に頭を下げると、周りにいた組員たちも一斉に頭を下げ、俺は空き地を後にした。空き地から涼たちの叫び声が聞こえてきたが、自分たちの自業自得だ。

その後、俺が家に戻ると父は男を連れて組に帰って行った。友人が寝ていたからおとなしく帰ったが、起きていたらきっと孫に構いたがって家に座っていたことだろう。

次の日、俺は役所に離婚届を提出し、マリアとの離婚が成立した。その日のうちに若頭からの連絡で、涼たちは田舎の工場で住み込みで働くことになったことを知った。涼も離婚することになり、妻から浮気の慰謝料と子供の養育費の支払いを求められたそうだ。俺への慰謝料と妻への慰謝料、子供の養育費の支払いで、涼が工場を出られるようになるのはいつになることやら。俺を袋叩きにした涼の連れの男たちも工場に送られたそうだから、仲良く仕事に励んでもらうことにしよう。

マリアは自分の実家に戻り、アルバイトを掛け持ちしながら慰謝料の支払いをすることになった。今までまともに働いたことがないマリアにとって、働く大変さを知るいいきっかけになるといいのだが。

俺はと言うと、今まで通り岡崎組の組員として修行を続けている。友人のことは俺の仕事中は母と父、それに兄が代わる代わる世話をしてくれることになり、人懐っこい友人はすぐに3人と仲良くなった。これからは今まで以上に家族を大切にしていこう。俺はそう心に誓い、友人の笑顔を守るため、今日も努力を重ねている。

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