夜道で電柱の下にうずくまる人影を見つけた。近づくと、同じクラスの七が顔中傷だらけで震えていた。「おい、殴られたのかよ」と聞くと、七は「やめろよ。私が勝手に殴られに行っただけだ」とだけ言って、またうずくまった。不良を卒業すると言ったら、仲間から裏切り者扱いされたらしい。俺は彼女を家に連れて帰り、手当てをした。それから毎日、七を送り迎えするようになった。すると、ある日、道端に七の元仲間たちが待ち…

夜道で電柱の下にうずくまる人影を見つけた。近づくと、同じクラスの七が顔中傷だらけで震えていた。「おい、殴られたのかよ」と聞くと、七は「やめろよ。私が勝手に殴られに行っただけだ」とだけ言って、またうずくまった。不良を卒業すると言ったら、仲間から裏切り者扱いされたらしい。俺は彼女を家に連れて帰り、手当てをした。それから毎日、七を送り迎えするようになった。すると、ある日、道端に七の元仲間たちが待ち...

夜道を歩いていると、電柱の下にうずくまる人影が見えた。近づくと、制服を着た女子生徒が顔を腫らしてうずくまっていた。同じクラスの斎藤七だった。

「おい、殴られたのかよ。警察に行くか」
「やめろよ。私が勝手に殴られに行っただけだ」

七はそう言うと、またうずくまったまま動かなくなった。このままじゃまずいと思い、俺は彼女の腕を取って、引きずるようにして家まで運んだ。

母は驚きながらも、七をリビングに運び、手当てをしてくれた。ほとんどが打撲で、骨は折れていないらしい。七は目を覚ますと、仲間たちと縁を切ると言ったら、裏切り者だと言われてやられたのだと話した。

「とりあえずありがとう。もう大丈夫だから」

七は立ち上がろうとしたが、体に力が入らずによろけた。

「今日は無理だろう。このまま休んで行けよ」

俺は七を脅して無理やり布団に寝かせた。

翌朝、七と母が朝ご飯を食べるか食べないかで揉めていた。父はニコニコしながらその様子を見ている。母は昔から人の子だろうと容赦しないし、世話もする。

「かずなり、あんた送ってやんな」

母の命令は絶対だ。俺たちは支度をして家を出た。七の家は俺の家からそう遠くなかった。

「もう不良は卒業しようと思ったんだけどな」

七はぽそっと呟いた。

「なんで急に?」
「せっかく新学校に入ったのに意味ないだろう」

「まあ、そりゃそうだ。なんか俺ができることあったら言えよ」
「お前には何もできねえよ」

七に言われてムカッとしたが、確かに俺は喧嘩なんか強くない。

七は数日休んで、次の週にやっと学校に来た。教室に入ると、みんながひそひそと噂話をした。七がまたヤンキー仲間と暴れたと。

「おはよう。怪我の具合どうだ?」
「うるせえ」

七は俺と話したくないようで、遠ざけるように言った。

「まだ痛むなら病院に行った方がいいよ」
「お前、話しかけて来なよ。ほっとけよ」

七は席を立ってどこかに行ってしまった。

昼休みにもう一度声をかけると、七はしつこいと言いながらも、帰宅時間になってやっと教えてくれた。

「もう技も薄くなってきてるし」
「そうか。よかった」
「マジでストーカーだな、お前。もう話しかけんな。とっとと帰れよ」

俺は七の怪我が良くなっていることを確認して、塾へと急いだ。

塾の授業を終え、家に向かって歩いていると、また電柱の下にうずくまっている人を見つけた。近づいて顔を見ると、七本人だった。

「お前、またかよ」
「またかよ。は、こっちのセリフだよ。なんでお前がここにいるんだよ」
「通り道だよ。今度は誰と喧嘩したんだよ」
「今回は喧嘩じゃねえよ。一方的にやられたんだ。あいつら、私のことが許せないらしい」

また同じ奴らかよ。俺は七の体を支えて起こした。今度は足首を痛めているようで、引きずっている。

「肩に捕まっていいってば」
「なんでだよ」
「1回も2回も同じだよ。早くうちに行こう。手当てするから」

七の両親は共働きで、2人とも夜遅いらしい。

「まあ、家にいたとしても、大して私のことなんか気にしてないけどな」
「親なんだから、そんなことないだろう」

人の家のことだから分からないけれど、子供が可愛くない親なんかいないと俺は思っている。

家に連れて帰ると、母は夜勤でいなかった。

「とりあえず今日は俺が手当てするから、明日病院に行けよ」
「病院は嫌だ」
「たく、子供みたいだな」

俺は七の腫れた足首を冷やし、包帯を巻いた。

「どうせ家に誰もいないんだろう。今日も泊まって行け。こないだの布団、そのままあるから」
「帰るからいいって」
「その足でどうやって帰るんだよ」

七はこの前よりは素直に言うことを聞いた。

「前、包帯巻くのうまいな」
「一応、これでも看護師目指してるからな」

七は驚いたような顔をした。

「で、でもビビリだから無理だろう」
「看護師は別に喧嘩できなくても大丈夫だよ」

俺は笑って言った。

「うるせえ」

「よし、じゃあなんか食べるか。母さんが作ったおにぎりがあるから、俺が味噌汁でも作るよ」
「お前、料理までできんのか?」
「たまに母さんの夜勤の時は作ってるよ。簡単なものだけど」

俺は冷蔵庫の中を漁って、使えそうな材料を出した。七が食べられるように、野菜を適当に入れた味噌汁をちゃちゃっと作った。

「うん。うまい」
「そっか。それ食べたらもう寝ろよ」
「お前、母親かよ」

俺たちはこの前の朝ご飯の時よりは、喋りながら夜食を食べた。

「でも、案外向いてるのかもな。看護師」
「なんだよ、急に」
「お前、母親に似てるからさ」
「え?俺、どこがだよ」

俺は照れ隠しにそう言ったが、七に向いていると言われたのは嬉しかった。

次の日の朝、俺たちは朝ご飯を食べた後、また七の家に送ってから学校に行こうと家を出た。

「あのさ、提案なんだけど、誰かに襲われるなら、1人でいる時間を作らなきゃいいんじゃない?」
「でも、そんなのどうすればいいんだよ」
「頼りないかもだけど、俺がついてれば違うんじゃないか」

俺は七の怪我が心配すぎて、自分の勉強も手につかないことを伝えた。

「まあ、こんなビビリでも、いないよりはましかな」
「おい、言い方」

俺は七に突っ込んでおきながら、彼女に拒否されなかったことに安心した。

七はやっぱり捻挫で、次の日からは引きずりながらも学校へ行けた。俺は約束通り七の家に迎えに行き、帰りは七の家に送っていった。

「私と一緒にいると、元宮が変な風に言われるんじゃない?」
「え?別にどうでもいいよ」

それよりも俺は、また七がヤンキーたちに襲われないかが気になった。

一緒に通学してしばらくは、やっぱり誰からも襲われなかった。1人でいるよりはいくらかマシだったらしい。

「私も元宮みたいに勉強してみようかな」

ある日、帰り道に七がぽそっと言った。

「うん。一緒に勉強しようよ。俺、教えてやるからさ」

そこから俺たちは、俺の塾の日以外、図書館で勉強して帰ってくるようになった。さらに七は親に頼んで、俺と一緒の塾にも通うようになったのだ。

七はどんどん遅れていた勉強を取り戻していった。元から頭はいいのだろう。俺が今までの分のノートを貸して、分からないところは教えるというのを何週間か続けると、もう今の授業のところまで追いついてしまった。

「お前、やっぱ頭いいんだな。真面目に勉強すれば、いい大学も入れるよ」
「まあな、お前よりいいとこ入れそうだよな」
「こら、調子に乗るな」

俺たちはその日も冗談を言い合いながら、七の家まで歩いていた。すると、道端にヤンキーの集団が待ち伏せしている。

「あいつら」

七は呟いた。俺はすぐに七の元仲間たちだと気がついた。

「私があいつらの相手してる間にお前は逃げろ」
「そんなことできるかよ」

かと言って、あの集団にひ弱な俺が勝てるとは思わなかった。

「走るぞ」

俺は七の手を取って走り出した。

「おい、逃げたぞ。待て」

奴らは俺たちが逃げたことに気づき、全速力で追いかけてきた。中にはバットみたいなものを持ってるやつまでいた。あいつらに捕まったら、2人ともボコボコにされるどころか、命だって危ない。

俺たちは必死に走った。もう息が切れて走れなくなったところで、路地裏に隠れた。

「はあ。お前、足は早いんだな」

息を整えながら七が言った。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。あいつら、しつこいな。どこまで追いかけてくるんだよ」

俺は角を曲がったところからそっと奴らの様子を伺った。すると、俺たちを探してまだ追いかけていた仲間に見つかったのだ。

「やば」
「おい、あそこだ」

また走り出した俺たちの前に、別のヤンキーが現れた。

「七か?」

そいつはヤンキーたちのボスだったらしく、何人かの子分も連れていた。

「あ、アカさん」

あの怖いもの知らずの七も恐れている。後ろからは俺たちを追いかけてきたヤンキーたちが走り寄ってきた。絶体絶命の俺と七だったが、思わぬ方向へ事態は進んだ。

ヤンキー軍団が俺たちに襲いかかるその時、アカというボスがドスの効いた声で怒鳴った。

「お前ら、いい加減にしろ」

アカの声は路地裏に響き渡り、ヤンキー軍団は手を止めて静まり返った。

「しつこいぞ、お前ら。いいか、私のポリシーは『されどもおわず』だ」

そう言うと、アカは子分たちを連れてキビスを返した。振り返る瞬間、七の方を見て少し微笑んだのを、俺は見てしまった。

さすがボス。他のヤンキーとは貫禄も器の大きさも違う感じがした。

それから、七を追い回していた奴らは姿を見せなくなった。七はますます勉強に励むようになった。期末テストを終え、七はついに全科目平均点以上を取ることができた。

「これでもう、俺が教えなくても大丈夫だな。俺のノートももういらないだろう」

長瀬は途中から俺たちの勉強会に加わってきた。最初は関わらない方がいいとか言っていたくせに、七の真っすぐな努力に心を動かされたらしい。

「いや、マジでそれは困る。お前らの勉強会がなかったら、私はここまで来れなかったからな」

その日も俺は七を家に送っていった。正直、もう俺がついていなくても問題はないのだが、七のそばにいることが習慣になってしまった俺は、ボディガードのような役をやめることができなかった。

「元宮、ありがとう。じゃあな」
「あ、ちょっと待って、七」

俺は七の手を掴んだ。

「あのさ、お前、来年俺と同じ大学受けろよ」
「そんなの無理だろう」

俺はなんでそんなことを言ってしまったのか分からない。ただ、七の面倒を見なくて済むようになったら、もう七は離れていってしまうような気がしたのだ。

「来年も一緒に受験勉強できるだろう」

七はそれを聞いて顔を赤らめた。七のそんな照れた顔を見るのは初めてだった。

「え、来年も教えてくれるのかよ」
「当たり前だろ。あと、学校へも一緒に通学するからな」
「なんでだよ。もうその必要もねえだろう」

俺は七の鈍感さについ、秘めていた感情が爆発した。

「お前、こういうのは頭悪いんだな。俺はお前のことが好きなんだよ」
「え?」

七は言葉を失い、俺をじっと見ているだけだった。

「それって、女としてってことか?」
「それ以外に何があんだよ」

俺は切れ気味に言った。

「俺はビビリで、弱いけど、お前を守れる自信はある。夢も叶えるし、その俺の姿をお前に見ていてほしい」

恥ずかしくて早口で言った俺の言葉に、七は驚いていた。まさかこんな俺が女の子に告白するなんて思っていなかったのだろう。

「あ、私を守るなんて、お前には無理だよ。だから、変な奴に絡まれたら、私がお前を守ってやる」

七の強がりなその返事は、告白を受け入れてくれたと俺には分かる。俺は七がたまらなく可愛く思えて、そのまま腕の中に抱きしめた。

俺たちはこうして交際を始めた。元ヤンキーとひ弱なガリ勉が付き合い始めたと知って、周りは驚愕していたし、変な噂もされた。しかし、長瀬だけは祝福してくれたのだった。

「まさか付き合うとは思わなかったが。ま、お似合いだ」

俺たちは意外にも順調に付き合いを続けた。と言っても、受験生だから、2人のデートといえば勉強ばかりだ。

俺たちは結局、同じ大学を受験し、合格した。俺は予定通り看護学部に、七は教育学部に入った。あんなに教師に迷惑をかけていた七が教師を目指すなんて、誰も考えなかっただろう。

それからさらに時は流れ、俺は無事看護師の国家試験に受かった。合格が分かった日、俺は七にプロポーズした。

「俺と結婚してください」
「しゃあねえな。してやるか」

七はあの頃と変わらずツンデレだし、すぐ喧嘩を吹っかけてくるところは変わらない。でも、1つ違うのは、歩く時は絶対俺の手を繋いでくるところだ。七だけに見せる可愛いところを、俺は誰にも教えたくないと日々思っている。

それから、俺の母さんと七は遠慮なく言い合いをする仲だが、2人とも元ヤンキーなだけあって、根本的にすごく気が合うらしい。強い女性に囲まれて、俺はこれからも幸せに生きていくだろう。

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