「お前はな、余計なお節介のせいで身を滅ぼすんだよ。」
その言葉とともに、俺は上司から解雇通知を突きつけられていた。29歳の俺、藤原琢磨は、大手設備関連企業の地方支社で営業をしている。目立たないが真面目に働くタイプで、取引先からの信頼は厚い。だが、営業部を束ねる新島部長には、どうしても目の敵にされていた。
新島部長は、いわゆる「嫌われるリーダー」だ。権力を振りかざし、気に入らない社員を容赦なく怒鳴りつける。俺も同僚も、部長の機嫌を損ねないように常に気を張っていた。
ある日、部長が営業事務の契約社員・吉田行子さんに、熱いお茶を浴びせた。吉田さんはシニア雇用で入社した、丁寧で頼りになる女性だ。部長は「とんでもないばあさんだ」と罵り、湯のみを投げつけたのだ。
「部長、やりすぎです。吉田さんに謝ってください。」
俺は思わず立ち上がり、部長の前に立っていた。自分でも驚くほど冷静に、お茶出しの強制がハラスメントにあたること、吉田さんへの暴言がセクハラになることを指摘した。
部長は一瞬黙り込んだが、周囲の同僚たちが立ち上がり、冷たい目で部長を見つめていた。部長は「ふざけんじゃねえよ」とだけ言い残し、その場を去った。
翌朝、部長は朝礼でいきなり俺を呼びつけた。
「お前は今日で首だ。荷物をまとめて出ていけ。」
解雇理由は「昨日の件で営業部の秩序を乱した」というものだった。俺は呆然としながらも、荷物をまとめ、引き継ぎを始めた。
吉田さんは青い顔で謝ってきた。
「私のせいで、本当に申し訳ない。」
「大丈夫です。僕のことは自分で考えますから。」
俺は作り笑いを浮かべ、その日をやり過ごした。
退社時間になり、荷物を抱えて廊下に出たとき、一人の男性が駆け寄ってきた。
「君が藤原君か。君はやめなくていい。こんなことでやめないでくれ。」
それは本社の高橋社長だった。社長は新島部長を詰め寄り、解雇通知を偽装したのかと問い詰めた。部長は汗を拭いながら言い訳を繰り返すが、社長は聞く耳を持たない。
社長室に通された俺と部長。そこで社長は驚くべき真実を明かした。
「吉田行子さんは、私の妻の母だ。」
吉田さんは社長の義母で、キャリアウーマンとして長年働いてきた。定年後、知人の会社を経て、この支社に配属されたのは偶然だったという。静かに働きたいと、関係を隠していたのだ。
吉田さんは、俺が解雇されると知り、すぐに社長に連絡していた。社長は急いで駆けつけ、解雇を取り消すと宣言した。
「藤原君、私はこれから解雇の取り消しに動く。だから君はやめないでほしい。」
俺の解雇は取り消され、事態は収束した。
一方、新島部長は社長に「君には何も言う権利はない」と一蹴され、その場で退出させられた。数日後、部長は出勤停止処分となり、社内調査の対象に。過去のハラスメントや子会社での問題まで掘り起こされ、最終的には解雇された。さらに、吉田さんに熱いお茶をかけた行為は暴力として被害届が出され、部長は訴えられることになった。
部長がいなくなった支社は、驚くほど穏やかで働きやすい場所になった。吉田さんは引き続き頼れる事務として活躍し、俺も新規案件のリーダーに抜擢された。
俺は今、自分らしく堂々と働いていきたいと思っている。



