いつも通り畑でトマトの手入れをしていたら、見知らぬ女の子が立っていた。「おい、何見てんだよ」——それがひなこ。近所で有名な不良少女で、誰もが避けていた。数日後、彼女のおばさんが突然うちに来て「ひなこを働かせてやってくれないか」と頭を下げた。人手不足だった私は、断りきれずに引き受けてしまった。初日から彼女はやる気ゼロ。「畑仕事なんて意味わかんない」と吐き捨てた。私は思わず熱くなって、野菜を作る…

いつも通り畑でトマトの手入れをしていたら、見知らぬ女の子が立っていた。「おい、何見てんだよ」——それがひなこ。近所で有名な不良少女で、誰もが避けていた。数日後、彼女のおばさんが突然うちに来て「ひなこを働かせてやってくれないか」と頭を下げた。人手不足だった私は、断りきれずに引き受けてしまった。初日から彼女はやる気ゼロ。「畑仕事なんて意味わかんない」と吐き捨てた。私は思わず熱くなって、野菜を作る...

俺はシ吾、二十歳。代々続く農家の家に生まれ、高校を卒業してからは家業を継ぐと決めて毎日畑に立っている。ありがたいことに注文はたくさん来ていて、忙しい日々を送っていた。

田舎の町で、同級生たちはみんな都会へ出てしまい、俺の周りには友達と呼べる人はいない。もともと人見知りで女にも慣れていないから、彼女ができたことなんて一度もなかった。

仕事には熱い思いを持って取り組んでいる。それなのに、ふと「このままでいいのか」と思うことがあった。そんな俺の人生が、一人の不良少女との出会いで大きく変わっていくことになる。

あの日もいつも通り畑で作業をしていると、近くを一人の少女が歩いていた。ひなこ。十年ほど前にこの町へ引っ越してきた、見るからに怖そうな不良で、周りの誰もが怯えていた。

目が合った瞬間に、案の定声をかけられた。「おい、何見てんだよ」「いや、別に見てないけど」

これまで不良とは無縁だった俺は、正直彼女が怖かった。近づかないようにしよう。そう心に決めていた。

ところがある日、近所のおばさんがこんな相談を持ちかけてきた。「いきなりで申し訳ないんだけどね。うちのひなこを、シ吾君のところで働かせてやってくれないかな」

ぎょっとして聞き返す。「え、僕のところでですか。でもなんで急に」

「実はね、あの子最近学校をやめちゃったのよ。それで早く仕事をしたいんだって。でもあんな態度じゃ、なかなか仕事も見つからないし。あの子の将来のためにも、人との関わり方を知っておいた方がいいと思うの。シ吾君ならあの子と年齢も近いし、よかったらお願いできないかな」

見た目は怖いけど、根は悪い子じゃないとおばさんは言う。確かに、野菜の取り方を教えるだけで済むなら、そんなに話す必要もないだろう。それに最近は人手不足で困っていたところだ。

「わかりました。不安ではありますけど、やってみます」

こうしてひなこちゃんと一緒に働くことになった。

後日、ひなこちゃんが畑にやってきた。「ひなこちゃん、おはよう。今日からよろしくお願いします」

返事がない。目も合わせてくれない。「ひなこちゃん、どうしたの。今日からよろしくね」

「はい。よろしく」

素っ気ない返事。挨拶だけで、いきなり気まずい雰囲気になった。それでも早く仕事を覚えてほしかったので、俺はそのまま進めることにした。

「じゃあ、僕が実際にやってみるから、ちょっと見ていて。ここではいろんな野菜を育ててるんだけど、今日はトマトの世話をしてみようか」

作業の手本を見せてから、彼女にもやってもらおうとした。「じゃあ、一回やってみようか」

「いや」「え。ごめん、ちょっと聞こえなかった」「やっぱり私、やめとく」

思わず聞き返してしまった。来た時から態度がおかしいとは思っていたが、いきなり仕事を拒否するとは思っていなかった。「ど、どうして。何か気に入らないことでもあった」

「特にない」「じゃあなんで」「しつこいな。やらないって言ったらやらないの。そもそも私は、工場とかで一人でできる仕事を探してたの。それなのに、おばさんが勝手にあんたと約束したんでしょ。だから今日だけ仕方なく来てあげたの。それだけ」

そういうことか。でも、俺は彼女に言い返した。「おばさんも言ってたよ。ひなこちゃんの将来のためにも、人との関わり方を知っておいた方がいいって」

「うるさいな。大きなお世話だよ。どうせあんたも私のこと迷惑だって思ってるんでしょ」

「え?」あんたもって、どういう意味だろう。何か、人と関わりたくない理由でもあるのか。ひなこちゃんの言葉に、違和感を覚えた。

すると彼女は続けた。「別に黙ってないで、本当のこと言ったらいいのに。大体最初から畑仕事なんてやりたくなかったんだよね」

「畑仕事なんて?」「そう。服も髪も汚れる仕事して、何が楽しいの。意味わかんないんだけど」

俺は考えるのをやめて、正面からひなこちゃんと向き合った。「ひなこちゃん、そんな言い方したらダメだと思うな」

「な、なんだよ。突然そんな真剣な顔してさ」「俺のことは、どんな風に言ってもらっても構わない。でもね、農業とか野菜のことを悪く言うのは、黙ってられない」

「別に何を言ったって、私の勝手だろう」「確かにひなこちゃんの言う通りかもしれない。でも、ひなこちゃんは今まで野菜を食べたことがあるでしょ」

「はあ?それが何だってんだよ」「ひなこちゃんの食卓に届くまでに、それらの野菜はかなりの手間暇をかけてるんだよ。みんなは当たり前のように食べているものかもしれないけど、裏では大勢の人たちがすごい努力をして届けられているんだ。確かに農業は髪も服も汚れる仕事だし、面倒だって思うかもしれない。でも、その分やりがいもたくさんあるんだ。ひなこちゃんはまだ仕事のことを深く知らないのに、頑張っている人や仕事のことを悪く言うのは、良くないと思うな」

ひなこちゃんは口ごもった。「そ、そんなこと言われても」

「ひなこちゃんが本当に働くのが嫌なら、無理に仕事をさせるつもりはないよ。ただ、ひなこちゃんがこの先他の仕事をしたとしても、さっきみたいな発言は絶対にしちゃだめだ。それだけは分かってほしい」

ああ、やってしまった。ついつい仕事のことになると熱くなってしまう。「もういいや。帰るわ」

「ちょ、ちょっと」

俺が戸惑っているうちに、ひなこちゃんは帰ってしまった。正しいことを言ったつもりだが、まだ学生の彼女には言いすぎたかもしれない。それに、帰る直前のひなこちゃんの顔は、どこか反省しているようにも見えた。さっきの「あんたも」という言い方も、どうしても気になる。

よし。俺はあることをひらめき、急いで仕事を終わらせた。

夜になって、俺は準備をしてひなこちゃんの家に向かった。「あら、シ吾君、突然どうしたの?」「いきなりすみません。実は今日、ひなこちゃんに強く言ってしまって」

昼間の出来事をおばさんに話すと、おばさんは知っていたようで謝ってきた。「なんかこちらこそごめんね。シ吾君には迷惑かけちゃったわよね」

「いえ、僕は大丈夫なんですけど、一度引き受けたからには責任を持って、ちゃんとやり遂げたいなって。ひなこちゃんのことも心配ですし。だから、もう一回ひなこちゃんと話したいなって思いまして。今、お家にいますか」

「いるにはいるんだけど、部屋に引きこもっちゃって出てこないのよ。あの子の家庭ってちょっと複雑でね」「ああ、おばさん、全部言わなくて大丈夫です。僕も何かあるんだろうなって、なんとなく気づいているので」

「分かったわ。シ吾君、ありがとね。玄関で話すのもあれだから、上がっていって。私はひなこを呼んでくるわね」

おばさんがひなこちゃんを呼びに行っている間、俺はキッチンを借りて、持ってきた鍋を温めることにした。しばらくすると、ひなこちゃんがリビングに降りてきた。

「ああ、ひなこちゃん、いきなりごめんね。お腹空いてない?よかったらこのスープ、食べてみてくれないかな。このスープはね、うちの畑で取れた新鮮な野菜がたくさん使われているんだ。本当に美味しいから、一緒に食べない」

スープのいい香りに誘われたのか、ひなこちゃんのお腹がぐうっと鳴った。「ちょ、ちょっとだけ食べてみようかな」

俺がスープをよそって差し出すと、ひなこちゃんは一口すすると、目を見開いた。「お、おいしい」

「でしょ。これが僕の自慢の野菜たちだよ」「シ吾さん。今日はあんなひどいことを言って、ごめんなさい。私、どうしたらいいかわからなくなっちゃって」

ひなこちゃんは涙を流しながらそう言った。やっぱり、ちゃんと反省していたんだ。「大丈夫だよ。もう気にしなくていい。僕もちょっと言いすぎちゃったよね。ごめんね。でも、ただ一つだけ分かってほしいのは、農業っていう仕事は、こうやって食べる人に笑顔を届ける仕事なんだ。今日一緒に作業しようとしたトマトの栽培だって、その笑顔につながってる」

「すごいね…。本当にすごいと思う。こんな美味しい野菜、私初めて食べた。だから私も、笑顔を届けられるようになりたい。頑張ってみたい」

その表情から、すぐに彼女の本気さが伝わってきた。仕事に対して前向きになったひなこちゃんを見て、俺も嬉しくなった。「よし、僕はそろそろ帰ろうかな。ひなこちゃん、また明日。畑でね」

「はい。よろしくお願いします」

そう言って頭を下げるひなこちゃんを見て、俺はおばさんの言葉を思い出した。本当は、悪い子じゃないんだ。

翌日から、ひなこちゃんは約束通り仕事に来るようになった。ただ、彼女は少し不器用なところがあって、最初のうちは何度も失敗を続けた。

「ああ、また今日もダメだった」「大丈夫、大丈夫。僕も最初はできなかったよ。ひなこちゃんよりもひどかったと思う」

「本当?」「そうだよ。でも、できないなりに努力はしたんだ」「そうなんだ。シ吾さんが失敗するなんて考えられないな」「みんな失敗するし、苦労もする。ひなこちゃんは真剣にやってるし、昨日よりも成長してるんだから、気にすることないよ」

俺は失敗して落ち込むひなこちゃんを、欠かさずフォローした。そのおかげか、少しずつ彼女の方から話しかけてくれるようになった。

そんなある日、休憩中に以前から気になっていたことを聞いてみた。「ひなこちゃんは、どうしてここに引っ越してきたの?」

「うちは元々家庭が複雑でさ…。お母さんも、私が小さい頃に病気で亡くなったの」「そうだったんだね。変なこと聞いてごめんね。無理やり話さなくてもいいから」

「うん。大丈夫だよ。シ吾さんには、いつか話そうと思ってたから」

俺は真剣に彼女の話を聞くことにした。「お母さんが亡くなってから、私は親戚に引き取られることになったんだけど、心よく引き受けてくれる人は誰もいなかった。だからずっと点々としてたんだ。そんな時に偶然、遠い親戚のおばさんに出会って、引き取ってもらえることになったの。だからここに引っ越してきたんだ」「それが、おばさんだったんだね」「うん。おばさんには本当に感謝してる。でも、他の親戚に迷惑がられたこととか、学校で家のことを馬鹿にされたことが重なって、人のことを信じるのが嫌になったんだ。それで私は一人で生きていこうと思って、自然と壁を作るようになったの。どうせ見放されるなら、最初から仲良くなんてならなくてもいいやって思った」

「なるほどね。だから周りの人にも、高圧的な態度でいたんだね」「うん。知らない人と話すのは緊張もするし、警戒もしてしまうから。シ吾さんにも、あんな態度を取っちゃったんだ。本当にごめんなさい」

「謝らなくてもいいよ。だって今はこうして話してくれてるでしょ」「ありがとう。今更こんなことを言うのは卑怯かもしれないけど、私、シ吾さんと一緒に働けて本当に良かったって思ってる。仕事にやりがいも感じてるし、前よりは人を信じられるようになってきたしね」

「そんな風に言ってもらえると、僕も嬉しいな。これからも一緒に頑張ろう」

この日をきっかけに、俺たちの絆はさらに深まった。ひなこちゃんが自分の過去を話してくれたことが、純粋に嬉しかった。俺も仕事を教える立場として、もっとしっかりしようと気持ちが引き締まった。

ひなこちゃんが働き始めてから一ヶ月も経つと、彼女も仕事に慣れてきて、笑顔が見られる頻度も増えた。自然な笑顔が一番可愛いな。俺にも少しずつ気持ちの変化が起こり、いつの間にか、楽しく働いているひなこちゃんのことを目で追うようになっていた。

「ひなこちゃん」「はい」「これ、野菜スープ」「ありがとう。いただきます。ああ、やっぱり美味しい。食べても食べても、シ吾さんの作る野菜が世界一だよ」「はあ、ありがとう。自慢の野菜たちだからね」

ひなこちゃんはいつも、俺の作った野菜料理を眩しい笑顔でたくさん食べてくれる。そんな姿に、自然と惹かれていった。

そんなある日、畑仕事が終わり、いつも通り片付けをしていると、ひなこちゃんが突然声をかけてきた。「ねえ、シ吾さん。次の休みの日なんだけど、何か予定ある?」

「次の休みか。えっと、この日は出荷もないから、特に予定はないかな」

すると彼女からは意外な言葉が返ってきた。「一緒にどこか、出かけない?」

「え?僕と二人で?」「ああ、嫌なら別にいいんだけど…。おばさんから、たまには遊んできたらって言われたし。どうせならシ吾さんも一緒にどうかなって」

「全然嫌じゃないよ。ちょっと驚いただけ。誘ってくれてありがとうね。じゃあ、せっかくだし一緒にお出かけするか」「やった。じゃあ海に行きたい」「海か。いいね。畑にいるから、たまには海でリフレッシュでもしようか」「うん、嬉しい。じゃあまた連絡するね」

ひなこちゃんは目を輝かせながら、嬉しそうに帰っていった。あれだけ顔が赤かったということは、それだけ恥ずかしかったんだろう。それでも勇気を出して誘ってくれたんだ。

それにしても驚いた。まさかひなこちゃんが、プライベートでも俺に会おうとしてくれるなんて。これは一応、デートってことになるのかな。

こうして俺は、生まれて初めて女性と二人で遊びに行くことになった。

当日になって、俺は髪を整えてひなこちゃんを迎えに行った。「ひなこちゃん、お待たせ。軽トラなんかで来ちゃってごめんね」

「うん。全然待ってないよ。こちらこそ迎えに来てくれてありがとう。それに軽トラだっていいよ。荷物たくさん乗るし、最高じゃない」

「ありがとう。じゃあ、早速行きますか」

私服姿のひなこちゃんを見るのは初めてだな。これもまた可愛い。俺はいつもと違うひなこちゃんを見られて、早くも胸が高鳴っていた。

しかし、海に着くとさらに驚かされた。ひなこちゃんは突然、水着に着替え出したのだ。てっきり海を眺めるだけかと思っていたが、彼女は海に入る気満々だったらしい。仕事中では決して見ることのできない格好と、彼女のスタイルの良さに、俺はついドキドキしてしまった。嬉しいけど、目のやり場に困るな。

「早く行こうよ」

この日はとても天気が良く、海水浴場には大勢の人がいた。せっかくなので俺も水着を買ってきて、ひなこちゃんと一緒に海に入った。浮き輪も買って、二人で一つの浮き輪に乗って海に浮かんでいたのだが、とにかく距離が近い。女性慣れしていない俺には、刺激の強すぎるイベントだった。

それでも時間が経つにつれて緊張も解けていき、俺はひなこちゃんとの二人きりの時間を全力で楽しんだ。

「ああ、楽しかった。今日は連れてきてくれてありがとう」「また一緒に海に行こうね」「そうだね。僕も楽しかったよ。今日はたくさん泳いで疲れただろうから、ゆっくり休んでね。明日からはまた仕事を頑張ろう」「うん。じゃあまた明日」

こうしてひなこちゃんとの初デートは幕を閉じた。今までは一人で仕事をして、休日もだらけて過ごすことが多かった。その頃に比べると、最近は毎日が楽しくて仕方がない。これもひなこちゃんのおかげだ。彼女に出会えて本当に良かった。一人で帰りながら、俺は素直にそう思った。

しかし、そんな幸せな日常に、トラブルが発生した。

それはある夏の日のこと。予報によると、大型の台風がこの地域に接近すると言っていた。この地域は比較的台風が多い場所だったが、今回は見事に直撃しそうだった。農家にとっては、かなりの損害につながる恐れがある。

台風はこの日の晩に上陸予定で、俺たちは朝から必死で対策をした。初めてのせいか、ひなこちゃんは明らかに不安そうな表情をしていた。

「このトマトたち、大丈夫かな?シ吾さんと一緒に育てて、ようやくここまで大きくなったのに…。なんとかこの子たちを守ってあげたいけど、何か対策はないかな?」

「ひなこちゃん、それは僕も同じ気持ちだよ。ただ、場所を移動するわけにはいかないから、支柱を調整することしかできないね。できるだけ低くしておけば、風の影響も最小限に抑えられるんだ。ひなこちゃん、そっちを抑えてもらってもいいかな」

ひなこちゃんは終始心配そうな顔をしていたが、なんとか作業が終わったので、俺は彼女を家まで送り届けた。

しかし、俺はもっと早くひなこちゃんの気持ちに気づいてあげるべきだった。

帰宅した俺がじっと窓の外を眺めていると、雨は想像していたよりもひどくなっていた。「雨がすごいな。思っていたよりもひどくなりそうだ」

そんなことを考えていると、突然ひなこちゃんのおばさんから連絡が入った。「シ吾君、ひなこってそっちにいる?」

「え?こっちにはいませんけど」「そうなの?私の知らないうちに、こんな雨の中また出かけたみたいなの。それでまだ帰ってこないから、心配になっちゃって」「え、そうなんですか。こんな雨風の強い中、また出て行ってしまったのか」

「もう一度ひなこに連絡してみるわね」「わかりました。僕も今から探してきます」「ありがとう。でもお気をつけてちょうだいね」

俺は家の近くを探してみるが、この台風の中を歩いている人は誰もいない。次第に雨風は強くなっていく。「どこに行っちゃったんだろう。ひなこちゃんが行きそうな場所…」

もしかして。俺は慌てて畑に向かった。トマト畑に行ってみると、予想した通り、雨具を着たひなこちゃんが必死になってトマトを守っている。

「ひなこちゃん、何してるの?こんなところにいたら危険だ。一緒に帰ろう」「でも、この子たちが心配で、放っておけないよ」「今回の台風は、この後もまだ強くなるんだ」「そんなこと分かってる。でも、シ吾さんと作ったこの子たちは、私にとってとても大事なの。それなのに、このままだと台風でダメになっちゃう。そんなの、私嫌だ」

ひなこちゃんは涙を流しながらトマトを守っていた。状況は分かっているが、いても立ってもいられなかったのだろう。俺は彼女の肩に、ぽんと手を置いた。

「ひなこちゃん、ありがとう。ひなこちゃんの気持ちは嬉しいし、僕も同じことを思ってる。でも、さすがにここにい続けるのは危険だ。ひなこちゃんに何かあってからでは遅いだろう」

俺は泣いているひなこちゃんの手を引き、車に乗せた。そしてびしょ濡れの彼女にタオルを渡した。

「ひなこちゃん、台風からトマトたちを守ってくれてありがとうね。でも、こんな危険なことをしちゃだめだ。僕もおばさんも、すごく心配したんだよ」

「ごめんなさい。どうしても、放っておけなくて」「そうだよね。ひなこちゃんの気持ちもよく分かる。でも、僕たちはできることはやった。だから今は信じて待つことにしよう」

こうして俺は再び彼女を家に届けた。

翌朝になると、台風は去っていて天気も回復していた。俺とひなこちゃんは畑に向かう。台風の勢力はすごかったが、被害はそこまで受けていないようだった。トマトも、なんとか無事だった。

「シ吾さん、どうやってこの子たちを守ったの?」「一番は、ひなこちゃんが雨の中から守ってくれたからだよ。僕がしたこととしては、ひなこちゃんが他の作業をしてくれてる間に、ネットをかけたり支柱を減らしたりして対策しただけだよ」

「そうなんだ…」「トマトを守りたいのは、僕も一緒だって言ったでしょ。多少ダメになっちゃった子たちもいるけど、全て無駎になることはないんだ」

「よかった」

ひなこちゃんはようやく安心したのか、その場にしゃがみ込んだ。「ひなこちゃん、大丈夫?」

「うん。安心したら、力が抜けちゃった」「そうだよね。命をかけて守ってくれて、ありがとう」

「私、失敗してばっかりだったから。この子たちまでダメにしちゃったら、もうここに入れないと思ったの」

「ひなこちゃん…」「なんか、泣いてばっかりでごめんね。シ吾さんにかっこ悪いところばっか見せちゃってるな」

彼女は泣きながらも、笑って見せた。そんな彼女を見た俺は、思っていたことが自然と口から出てしまった。「格好悪くなんかないよ。それにひなこちゃんは、うちの畑に必要な人材だよ。あと…君は、僕にとっても必要な存在なんだ。だから、ずっとそばにいてほしい」

「え?し吾さん、それって」

「僕はひなこちゃんのことが好きになった。不器用ながらも一生懸命働くひなこちゃんも、無邪気に笑うひなこちゃんも、野菜を愛してくれるひなこちゃんも、全部が好きなんだ。だから、これからは僕の彼女として、一緒にいてくれないかな」

「私も、前からシ吾さんのことが好きだった。こんな私に真剣に向き合ってくれて、ちゃんと叱ってくれた。だから私は変わったし、毎日が楽しくなった。全部、シ吾さんのおかげだと思ってる。こんな私でよかったら、お願いします」

こうして、俺たちの交際は始まった。

その後、一緒に育てたトマトは収穫され、その味は格別だった。俺とひなこちゃんで、その感動や嬉しさを分かち合った。俺一人じゃ、ここまで素晴らしいトマトには育っていなかっただろう。

その後、ひなこちゃんは農業高校に通うようになり、無事に卒業した。そしてそのタイミングで、俺たちは結婚した。今でも幸せな生活を送っている。俺たちの結婚には、おばさんや近所の人たちもとても喜んでくれた。

俺はこれからも、ひなこちゃんと共にこの農場を守っていこうと思っている。

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