「実は私、このお見合いで21回目なんです」…

「実は私、このお見合いで21回目なんです」...

「実は私、このお見合いで21回目なんです。」

彼女がそう言ったとき、俺は思わず大声を出してしまった。21回。あまりの数字に驚くしかなかった。

俺の名前は室井大地、30歳。アニメとゲームが好きな独身サラリーマンだ。以前付き合っていた彼女に「あなたの本命はアニメでしょ」と言われて振られて以来、恋愛が怖くなってしまった。休日はデートよりもアニメやゲームに没頭していた俺が悪いのは分かっている。でも、また同じことを繰り返すのが怖くて、自然と女性との交際から遠ざかっていた。

そんなある日、親戚の強い勧めでお見合いをすることになった。親戚が予約してくれた居酒屋の個室の扉を開けると、そこにはスマホの画面をじっと見つめる眼鏡の女性が座っていた。

「お待たせしてすみません」

声をかけても、彼女はスマホから目を離さない。話題を振っても、返事は素っ気ない。最初は緊張しているのかと思ったが、次第に腹が立ってきた。

「あの、とりあえず乾杯でもしませんか?」

ようやく顔を上げた彼女は、すぐにまたスマホに目を落とす。俺は刺身を食べながら、このお見合いを断ろうと決意した。

最後の一切れを口に放り込み、大声で言った。

「ずっとスマホを見てますが、何かありましたか?」

彼女は驚いてスマホを落とした。その画面に映っていたのは、俺が大好きなアニメのワンシーンだった。

「それって『俺の嫁』ですよね?」

「あ、はい。知ってるんですか?」

「俺もそのアニメ好きなんですよ」

さっきまでの怒りはどこへやら、俺たちはアニメの話で盛り上がった。彼女の名前は水希リナ、俺の2つ下だ。共通の好きなアニメやゲームがたくさんあって、話が尽きない。

すると彼女が突然謝ってきた。

「あの、すみませんでした。最初の態度のことです」

理由を聞くと、彼女は小さな声で言った。

「実は私、このお見合いで21回目なんです。最初の頃はうまくいってたんですけど、好きなアニメやゲームの話をすると、どの人も次から会ってくれなくなって。この前会った人には『女のオタクは恋愛対象にもならない』ってはっきり言われました。だから、次に会う人には最初から嫌われるようにしようって思ったんです」

彼女の目には涙が浮かんでいた。俺も同じ経験がある。

「俺もアニメやゲームが原因で振られたんですよ。休みの日はデートもせず、アニメやゲームばかりで。『私は差し詰め愛人ってところかしら』って言われました」

「ひどい」

「仕方ないですよ。俺が悪かったんです。でも、また同じことを繰り返すのが怖くて、恋人を作るのが怖くなったんです」

「私もです。休みの日はアニメばかり見てます」

「一緒ですね」

彼女の緊張が解け、自然な笑顔が見えた。その笑顔はとても可愛くて、思わず見とれてしまった。

それから俺たちは仕事の話や趣味の話で盛り上がり、気づけば3時間も経っていた。帰り際に連絡先を交換し、次に会う約束をした。

それから俺たちはたまに連絡を取り合い、仕事終わりにご飯を食べに行くようになった。彼女は初めて会った時とは別人のように明るく、好きなアニメやゲームの話を楽しそうにする。俺は彼女と過ごす時間がどんどん楽しみになっていった。

でも、自分の気持ちを伝える勇気が出なかった。前の彼女のように、また趣味を理由に振られるのが怖かった。

そんなある日、彼女から1ヶ月ぶりに連絡が来て、会うことになった。彼女はなんだか元気がなく、実家のリフォーム店の売上が伸び悩んでいると話してくれた。

「両親も新規顧客の獲得に努めてるんですけど、うまくいかなくて。お父さんはお店を畳もうかって話になってます」

俺は建築関係のことはよく分からないから、何もアドバイスできなかった。情けなくて、自分が嫌になった。

翌日、友人で同じオタク仲間の孝太に会った。孝太は結婚していて、奥さんも趣味を理解してくれている。俺がリナさんのことを相談すると、孝太は言った。

「お前の趣味を生かしたリフォームを提案してみたらどうだ? オタク向けのコレクションルームとか、見せる収納とか。結構需要あるぞ」

なるほど、と思った。俺はリナさんに電話して、そのアイデアを伝えた。

「オタク向けのリフォームを提案するってどうかな?」

「それ、いいですね。具体的に…室井さん、近々父に会ってくれませんか?」

予想外の言葉に固まってしまった。お見合い相手の俺を父親に合わせるって、どういうことだ?

そして、リナさんの両親に会う日が来た。会社の会議より緊張した。俺はプレゼン資料を用意して、リナさんの両親に説明した。

「こちらをご覧ください」

リナさんのお父さんは資料を黙って読み始めた。リナさんのお母さんも興味深そうに眺めている。

「すごくいいアイデアだと思うから、試しに会社のホームページに載せてみてもいいかな」

「こちらの会社の手助けになるなら、僕は一向に構いません」

「室井さん、わざわざうちのためにありがとうね」

「いえいえ、リナさんから困っていると聞いていたものですから」

「たったそれだけの理由でここまでしてくれるなんて。君は非常に熱い素晴らしい人なんだな」

リナさんのお父さんは豪快に笑いながら言った。

「室井さん、このままここで働かないか?」

「ちょっとお父さん、変なこと言わないでよ。室井さんが困っちゃうでしょ」

リナさんは顔を赤くしながら父親をたしなめた。俺は建築関係の資格も知識もないので、丁重にお断りした。

数日後、リナさんから電話があった。仕事中だったから出られず、休憩時間にかけ直すと、彼女は興奮した様子だった。

「室井さんが提案してくれた企画が、さっき来たお客さんに気に入ってもらえて、是非うちにやって欲しいって言ってくれたの!」

「おお、それは良かったですね」

「室井さんのおかげです。もっともっと注文が入るように頑張りますね」

「頑張るのもいいけど、無理はしないでくださいね」

「ありがとうございます。落ち着いたらまた食事にでも行きましょう。お礼もしたいので」

「そんなのいいですよ。でも、落ち着いたらご飯は食べに行きましょうね」

その後、リナさんの家のリフォーム店はSNSで評判になり、オタクやコレクター、ゲーマーから次々に問い合わせが来るようになった。

孝太とゲームイベントに行った帰り、居酒屋で飲みながら話した。

「リナさんの家は繁盛してるみたいだな」

「そうみたい。結構同じような悩み抱えてる人いるんだな」

「じゃあ、あれからリナさんとは会ってないのか?」

「今忙しいからね。でも毎日連絡は取り合ってるよ」

「いやあ、なんか尊いなあ」

「何言ってんだよ」

「そうやって会えない時間も愛を育んでるお前たちのことだよ。リナさんの両親にも気に入られてるんだろう。だったら後は大地が勇気を出せばいいだけじゃないか」

孝太の言葉に、俺はリナさんへの気持ちを再確認した。次に会う時は、自分の気持ちを伝えよう。

そして、リナさんからご飯に誘われた。場所は初めて会った居酒屋だった。

「大地さん、お久しぶりです」

「久しぶり」

リナさんは生き生きしていたが、少し痩せたように感じた。

「あの、これよかったら受け取ってください」

そう言って、丁寧に包装された菓子折りを差し出してきた。

「お父さんたちに大地さんと会うって言ったら、これ渡して欲しいって持たされたの」

「そんな気を使わなくていいのに」

「でも、大地さんのおかげで会社も立て直すことができたわけだから、受け取って欲しいです。本当にありがとうございます」

「じゃあ、遠慮なくいただきます」

リナさんがかしこまっているので、俺もつい頭を下げてしまった。

「私、大地さんと出会えて良かったです」

「皆さん…」

「ここのところ、私毎日大地さんのことを考えてしまうんです」

「それって…」

「大地さん、私…」

ちょっと待って。これはひょっとして、告白してくる流れじゃないか? 俺はリナさんの言葉を遮った。

「男の俺から言わせてもらえませんか? リナさん、好きです。俺と付き合ってください」

俺は頭を下げて、手を差し出した。

「大地さん、嬉しいです」

リナさんは恥ずかしそうに小さな声で答えると、俺の手を握り返してくれた。

「リナさん」

嬉しさのあまり、勢いよく頭を上げた。

「これから2人で幸せになろうね」

「はい」

リナさんは嬉し涙を浮かべた。その笑顔は、これまで見たことがないくらい綺麗だった。

交際をきっかけに、俺は会社を辞めてリナさんの家のリフォーム店に転職した。オタクやコレクターをターゲットにしたリフォームをリナさんと2人で担当し、業績は右肩上がりだ。

「大地君が来るようになってから、リナは毎日化粧するようになったな」

「お父さん、娘をからかうもんじゃありませんよ」

「からかっているわけじゃないよ。あんなリナは初めて見ると思ってな」

「そうね。それだけリナが成長したってことよ」

「そうだな。これも大地君のおかげだ。それに彼の提案も評判がいいしな」

そして、近々俺とリナは結婚式を挙げることになった。結婚式には、俺たちを引き合わせてくれた親戚も招待した。

「大地、やったな。おめでとう」

「やっぱりお似合いじゃないか」

「何言ってるの? 最初に言い出したのは私よ」

「確かに言い出したのはおばさんだけど、2人が動いてくれたおかげで俺はリナと結婚することができたんです。ありがとうございます」

「大地、良かったな」

兄貴も嬉しそうに目を細めている。

「リナさん、これからも大地のことをよろしくお願いします」

結婚式に参列してくれたみんなから祝福されて、この上ない幸せを感じる。

「大地さん、私、大地さんと出会えて本当に幸せです」

「俺もリナに出会えて幸せだよ」

リフォーム店も順調で、お互いの趣味も干渉することなく楽しめる。こんな幸せな暮らしができるなんて、リナと出会う前の俺には想像もできなかった。

この先、子供が生まれても、孝太のように家族で趣味も楽しんでいこう。子供が男の子だったらヒーローショーに行くのもいいかもしれない。女の子だったら俺の推しのコスプレもありだな。家族が増えれば増えた分だけ、楽しみも増えるだろう。

全てを諦めていた自分に、同じ価値観を持つ女性と人生を歩めることに気づくきっかけを作ってくれた親戚や兄貴に感謝だ。

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