工場のラインが止まったのは、いつもと何も変わらない平日の午後だった。その瞬間、社長が私の前に立ちはだかり、冷たく言い放った。「最新鋭の機械を扱える優秀な人材を引き抜いた。もうお前は必要ない。経営方針に従えない無能な老いぼれはクビだ」。二十三年間、私はこの工場で部品を作り続けてきた。先代社長に「頼むぞ」と頭を下げられ、その技術を守り抜くと誓った。なのに、後を継いだ息子は、職人の手仕事を「時代遅…

工場のラインが止まったのは、いつもと何も変わらない平日の午後だった。その瞬間、社長が私の前に立ちはだかり、冷たく言い放った。「最新鋭の機械を扱える優秀な人材を引き抜いた。もうお前は必要ない。経営方針に従えない無能な老いぼれはクビだ」。二十三年間、私はこの工場で部品を作り続けてきた。先代社長に「頼むぞ」と頭を下げられ、その技術を守り抜くと誓った。なのに、後を継いだ息子は、職人の手仕事を「時代遅...

最新鋭の機械を扱える優秀な人材を引き抜いたから、もうお前は必要ない。経営方針にも従えない無能な老いぼれは首だ。

長年工場の部品製造に携わってきた俺に対して、社長は罵倒した挙げ句、一方的に解雇を宣告したのだ。先代の跡を継いだばかりの新社長は、最新鋭の機械を次々と導入し、部品を量産化することに夢中になっている。全ての部品を機械化し、量産することは不可能だと何度も訴える俺を、邪魔者だと思ったのだろう。

俺は到底納得することができず、反論した。

「社長は私がどんな部品を担当しているか、本当に分かった上でおっしゃっているのですか?私を首にすることが、本当に会社の利益につながるとお思いなのですか?」

「当たり前だろ。お前のように自分を特別な職人だと思い上がっている老いぼれは昔から大嫌いなんだよ。これでお前の顔を見なくて済むと思うと清々する。さっさと出ていけ」

その社長の言葉に、俺はこれまでに感じたことのないような激しい怒りと屈辱を感じた。これまで何を言われても諦めず、社長を説得しようと努力してきたが、今度ばかりは我慢の限界だった。

「分かりました。それではやめさせていただきます。後悔しないでくださいね」

こうして俺は、長年勤めてきた工場を去ったのだった。

俺の名前は二神浩司。とある部品メーカーの工場に勤務し、気づけば工場勤務も二十年以上になる。中堅社員として毎日仕事に汗を流している。部品製造の仕事は、コツコツと自分のスキルを磨くことができるという点にやりがいを感じている。世の中にある全ての精密機械は、一つでもパーツが欠けてしまえば正常に機能しない。たとえ小さな部品であっても重要な役割を果たし、人々の生活の役に立つのだと思うと、自分の仕事に誇りを持てる。

俺がこの道に進んだのは、父が営んでいた工場の影響が大きい。父は元々町工場を経営していたのだ。父は口数多くを語らない性格だったが、仕事に対して並々ならぬ熱意と愛情を注いでいた。俺は昔からそんな父の背中を見てきて、心から尊敬していた。しかし父は俺が大学生の時に体調を崩してしまった。

俺は物心ついた頃から父の仕事を間近で見てきたし、父の指導のもと現場で手伝いもしてきたから、大学を中退して工場を継ぎたいと両親に言った。父の工場は職人たちの熱い思いが集い、常に活気に溢れていた。俺は父が大切にしてきた工場を何としても守りたかったのだ。

俺が告げれば両親も喜んでくれると思ったのだが、帰ってきた言葉は意外なものだった。

「お前の気持ちは嬉しいが、今は学業を優先してほしい」

母も父の意見に同調した。

「工場のことは気にしなくていいから、将来のためにしっかり学んでらっしゃい。それが私たちの願いだよ」

俺が大学を中退して工場を継ぐことは、俺の将来を犠牲にすることになると両親は考えたのだろう。俺は両親の説得に従って大学を卒業した。結局父は病気の治療のために長期入院することになり、工場は畳むことになった。俺は父の工場を継げなかったことがずっと心に引っかかっており、せめて父の意志を継いだ仕事に就きたいと考えた。こうして俺は、工場での経験を生かすことができる部品メーカーに就職したのだ。

部品メーカーの仙台社長は温厚な性格で、社員の意見もよく聞いてくれたので、とても働きやすい環境だった。仙台社長の元に集まった社員たちは、皆それぞれに素晴らしい製造技術を習得している。仙台社長は個々の能力を把握し、それぞれに得意分野のパーツ製造を任せた。誰か一人でも欠けると成立しない責任重大な仕事ではあるが、俺はとてもやりがいを感じていた。

俺よりもベテランの社員たちは年齢を重ねて、見た目はどこにでもいる普通のおじいさんのように見えるのだが、技術は超一流だ。ベテラン社員たちの手を見ると、手のひらや指の皮膚が分厚くなっており、長年の手仕事の努力を物語っている。俺は尊敬する先輩方と共に、これまで培った技術とノウハウを遺憾なく発揮し、これからも会社に貢献していきたいと思っていた。しかし、その時は突然訪れてしまった。

仙台社長が高齢のため病に倒れたのだ。俺がお見舞いに訪れると、仙台社長は工場の行末を案じて心配そうに言った。

「私の後は息子の直樹が継ぐことになるが、年を取ってからできた子供ということもあり、私は直樹のことをいささか甘やかしすぎてしまった」

俺は返答に困った。仙台社長が自分の息子を甘やかして育ててきたことは、長年勤めている社員たち皆が知るところであったし、俺から言わせれば「いささか甘やかした」などという程度ではない。欲しいものは何でもすぐに買い与え、行きたいところにはどこへでも連れて行き、息子が嫌がることは決してさせない。何もかも子供の望み通りになるように育てたせいで、すっかりわがままで傲慢な人間が出来上がってしまった。いい年をした大人になった今でも、気に入らないことがあるとすぐに不機嫌になって怒鳴り散らす。社員たちに対しても度々横柄な態度を取り、全く好かれていないのだ。

仙台社長はか細い声で祈るように言った。

「君たちベテランの社員が直樹を支え、どうか正しく導いてやってほしい」

俺は仙台社長を安心させようと返事をした。

「分かりました。私たちが支えていきますので、ご安心ください」

それから間もなく、仙台社長は息を引き取った。悲しみに暮れる暇もなく、俺たちは工場を稼働させなければならない。工場では早速社員たちが集められ、新社長就任の挨拶が行われた。

「父の後を継ぎ、社長に就任した日山直樹だ。俺が社長に就任したからには、これまでのやり方を一新する」

社長がそう高らかに宣言したが、俺たち社員は一体何を言い出しているのか分からず、呆然として聞いてしまう。そんな俺たちを睨みつけながら、社長はまるで演説のように語り出した。

「父のやり方はもう古い。今はテクノロジーの時代だ。俺はこれから各部品の大量生産を実現し、利益を必ず上げてみせる。俺のやり方についてこれない者は容赦なく切り捨てるから、覚悟するように」

就任挨拶からいきなりワンマン社長ぶりを発揮するとは、さすがに驚いた。

その後、社長は言葉通り大量の資金を注ぎ込み、工場に最新鋭の機械を次々と導入していく。長年製造に携わってきたベテラン社員たちからは不満の声が上がった。

「こんなにたくさん機械ばかり導入して、俺たちにどうしろって言うんだ。多くの部品は俺たちの手仕事によって作り出しているんだぞ」

そんなベテラン社員の訴えに対し、社長は嘲笑った。

「俺たちの手仕事だと?職人気取りもいい加減にしろよ。お前たちのような勘違いした老人に人件費を払うくらいなら、最新機器を導入して大量生産する方がよっぽど会社の利益につながるんだよ」

あまりにひどい物言いに、俺は言葉を失った。社長の頭の中にあるのは、人件費削減と大量生産だけだ。社員のことを考えたり、意見を聞いて理解しようとする気持ちなど全くないのだと分かった。そもそも誰がどのような技術を持ち、どのパーツを担当しているかさえ把握していないのだから、どうしようもない。

自分の考えが一番正しいと信じて疑わない社長は、工場の機械化と効率化を強引に押し進めた。その結果、長年工場を支えてきた高齢の社員たちは相次いで退職へと追い込まれていったのである。ベテランの社員が次々に去っていき、すっかり工場は寂れてしまった。俺は寂しさとやるせなさを抱きながらも、自分の仕事を全うしようと作業に励む。

俺が担当しているパーツは特殊技術が必要なため、量産は不可能だ。しかし俺は社長に呼び出され、こう告げられた。

「お前がいつもちまちま作っている部品だがな。あれも大量生産できるようにしろ」

この命令には呆気に取られてしまったが、俺はすかさず反論した。

「それは無理です。特殊な技術が必要です。機械で再現することなど、到底不可能です」

必死に訴える俺に対し、社長は苛立ちをあらわにして大声で怒鳴ってくる。

「無理とか不可能とか、そんな言葉は聞きたくない。これは社長命令だぞ。やれと言われたらやれ。お前に選択肢はないんだよ」

「信じていただけないのなら、現場に製造過程を見に来てください。見ていただければ分かってもらえるはずです」

社長は机をドンと殴り、鋭い目つきで俺を睨みつけると言った。

「現場を見に来いだとう。お前は社長である俺に指図するっていうのか。偉そうなつもりだ。機械化できないと言うなら、できるように改良しろ。それがお前の仕事なんだよ」

俺の話に全く聞く耳を持たず怒り狂う社長の様子を見て、今は何を言っても無駄だと悟った。そこで俺はこの日以降、日を改めて何度も社長のところに行き、説明をしたが、話はいつまでも平行線のままだった。社長は俺の顔を見るたび、うんざりしたような表情をするようになった。

「またお前か。何度話しても考えは変わらないと言っているだろう。さっさと言われた通りにしろ」

「いえ、お分かりいただけるまで何度でも来ます。量産できる部品とできない部品があることをご理解ください」

社長は苛立ち、頭を掻きむしった。そしてついに信じられない言葉を口にする。

「俺のやり方に従えないのなら、あの老人たちと同じように首にしてやる。首にされたくなかったら、さっさと言う通りにしろ」

長年会社のために力の限り尽くしてきた人たちを追い出しておいて、なんという言い草だ。いくら親に甘やかされて育ったとはいえ、ここまで人に対して敬意のない人間がいるのか。「首にされたくなければ言う通りにしろ」というのは、脅し以外の何者でもない。社長のあまりに横暴な言葉に、俺も怒りが込み上げる。怒りで震える拳をぐっと握りしめて耐えている俺に向かって、社長は言った。

「なぜだか知らないが、お前のことをお父さんは特別気に掛けていた。だから会社に残しておけば何かと利用価値があるのだろうと思って、お情けで置いてやってるんだ。次はないからな」

俺は黙っていられず反論した。

「社員に対して利用価値なんて言葉を使うのですか?我々は物ではありません」

「価値がないと判断すれば、すぐにでも辞めてもらう。これが俺のやり方だ。話は終わりだ。俺は忙しいんだ。出ていけ」

俺は話が全く通じないことに落胆して、その場を後にした。これからどうしたらいいのか。悶々と考え込む日々がしばらく過ぎて、ある時、俺は仙台社長に言われた言葉を思い出した。そうだ、俺は新社長を正しく導くように託されていたのだ。このままでは技術を持った社員がいなくなり、工場はいずれ立ち行かなくなってしまうだろう。俺がここで諦めてしまったら、この会社は終わりだ。分かってもらえるまで話をするしかない。

俺は意を決して、再び社長の元へと向かった。俺の顔すらまともに見ようとしない社長に対し、俺は必死に言った。

「社長、何度もお話ししている通り、全ての部品を量産化するのは不可能です。できる限りの機械化やコスト削減はすでに実行しています。これ以上は…」

話をしている途中で、突然ドアをノックする音が響いた。すると社長は俺を見て、にやりと不敵な笑みを浮かべる。そしてドアの方に向けて大声で言った。

「入れ」

社長がそう言うと、部屋に見たことのない男性が入ってきた。誰だ?俺が驚いていると、社長はニヤニヤしながら得意げにその男性を紹介した。

「最新機械の扱いが得意な優秀な人材の引き抜きに成功したんだ」

聞けば大手機械メーカーに勤めていた男だという。説き落とすのに少々時間がかかってしまったが、彼が来てくれればもうお前など必要ない。経営方針にも従えない無能な老いぼれに用はないんだよ。首だ。社長はそう言い放つと、椅子にドカッと腰かけ、勝ち誇ったように高笑いしたのである。

その姿に、俺はこれまでに味わったことのないような激しい怒りと屈辱を感じた。最新機械の扱いが得意な人材を引き抜いたから、俺は必要ない。そもそも機械では製造不可能だと再三に渡って訴えているというのに、聞こうともせず一方的に首を言い渡すとは、愚弄しているとしか思えない。

俺は反論しようと社長に詰め寄った。

「お待ちください。社長は私がどんな部品を担当しているか、本当に分かった上でおっしゃっているのですか?私を首にすることが、本当に会社の利益につながるとお思いなのですか?」

社長は俺を嘲笑うようにして吐き捨てる。

「当たり前だろ。お前のように自分を特別な職人だと思い上がっている老いぼれは昔から大嫌いなんだよ。これでお前の顔を見なくて済むと思うと清々する。さっさと出ていけ」

これまで何を言われても諦めず、社長を説得しようと努力してきたが、今度ばかりは我慢の限界だった。これ以上は無理だと悟った俺は、静かに言った。

「分かりました」

社長は俺の存在を無視するかのように、新しく採用した男性と上機嫌で話し出す。

「優秀な君が来てくれて本当に嬉しいよ。俺に従わない邪魔な奴らは追い出したことだし、これでやっと俺の理想とする会社にすることができるぞ」

社長は最後まで一度も、俺の話をちゃんと聞こうとはしなかった。仙台社長には申し訳ないが、俺の力では社長を正しく導くことはできなかったのだ。俺は部屋を出ていった。最後に工場を覗くと、ずらりと並んだ最新の機械の数々が忙しなく稼働し、その音を響かせている。俺は作業場に一礼すると、その場を後にした。こうして俺は、長年勤めた会社を去ったのである。

退職してから数日が経ち、俺は実家の父に会いに行った。父は工場を畳んだ後、病気の治療に専念し、今ではすっかり元気に過ごせるようになっていた。母と二人、健康に気遣いながら穏やかなシニアライフを過ごしている。

父は俺の訪問を歓迎してくれた。

「浩司、久しぶりじゃないか。よく来たな。しかし、こんな平日に仕事はどうしたんだ?」

父は俺が部品メーカーに就職して工場勤務になったことをとても喜んでくれていたので、退職の報告をするのは気が引けたが、黙っているわけにもいかない。俺は父に事の次第を話した。全て話し終わると、父は怒りで震える声を振り絞って言った。

「なんということだ。そんな奴が社長として上に立っている限り、その会社に未来はないぞ。工場で働く職人たちの技術が失われてしまう。なんとかしなければ」

俺が父の言葉に深く頷いていると、父はしばらく考え込んだ後、俺を見て口を開いた。

「浩司が勤めていた会社は確か…」

父はそう言いかけると、何かを決意したような表情になる。

「よし。父さんに考えがある。任せてくれ」

俺はこの時、父の考えが何なのか分かってはいなかったが、父に話を打ち明けられたことで心が少し軽くなり、感謝を伝えて実家を後にした。

それから一ヶ月後のことだ。父から連絡があり、実家に来てほしいと言われた。家に入ると、居間には来客がいて、何やら父に対し何度も頭を下げている。お客さんが来ているのか。見てみると、なんとそこにいたのは社長だったのだ。

父は俺が来たことに気がつくと、声をかけてきた。

「浩司、急に来てもらってすまないな。入ってくれ」

社長は振り返って俺の姿を見ると、驚きのあまり目を見開いた。

「な、なんでお前がここにいるんだ?」

「浩司は私の息子だ。君は私の息子をお前呼ばわりするのか?」

父がそう告げると、社長はひどく動揺し、汗をにじませる。社長は足も覚束ない様子で父に言った。

「む、息子。そ、そうなんですか」

社長の様子に父がふっと笑う。

「浩司が私の息子だと、何かまずいことがあるのかね。さて、話が済んだのなら、お引き取り願おうか」

社長が慌てて声をあげる。

「いえ、話は済んでいません。ライセンス契約を更新してもらえるまで、帰るわけにはいきません」

社長の言葉に、俺は状況を察した。父はかつて町工場を経営していた時に、いくつもの特殊技術を開発していた。工場を畳んでからは、社長の会社とライセンス契約を結んでいたのだ。それが一週間前に全ての契約期間が満了したのだが、父は契約の更新を拒んだ。それで焦った社長は、父に契約の更新を頼み込むため、家まで来ていたというわけだ。

父は断固とした態度で社長に言う。

「その話はすでに断ったはずだ。今後、君の会社との契約更新はしない」

「そこをなんとか考え直してくださいよ。いくら最新の機械があっても、部品を作る許可がなければどうしようもないじゃないですか。部品が作れなければ、うちは潰れてしまいます」

父は社長に問いかけた。

「君は浩司や、長年会社を支えてきた大勢の社員を首にしたそうだな。会社のために尽力してきた社員をないがしろにするのが君の経営方針なら、そんな会社と契約更新できないのは当然だ」

「いや、それは会社の発展のためには仕方のないことだったのです。古いものを捨てて新しいものを取り入れなければ、時代に取り残されてしまうじゃないですか」

やはりこの社長は何も変わらないな。俺が呆れて話を聞いていると、父がピシャリと言った。

「君が古いと決めつけて切り捨てたものは、掛け替えのない職人の技術だ。特殊技術には人の繊細な感覚が必要不可欠なのだよ。全てを機械で行うのは不可能だ」

さらに父は言葉を続ける。

「息子の浩司には昔から私の技術を教え込んできた。今、その繊細な感覚を極め、使いこなすことができるのは息子だけだ」

言葉を失って唸る社長に、俺は声をかけた。

「社長、私が何度も訴えていたこと、お分かりいただけましたか?」

次の瞬間、社長は顔を上げて俺を睨みつけると、突然逆上して大声を出した。

「ふざけやがって。首になった腹いせに、親子でぐるになって俺に恥をかかせたつもりか。何が繊細な感覚だ。こっちには優秀な人材がいるんだぞ。代わりの部品ぐらい、最新機械ですぐに製造できるんだ。いい気になるなよ」

俺と父は呆れ果てて顔を見合わせる。それにも構わず社長は怒りをあらわにして叫んだ。これ以上何を話しても、社長を怒らせるだけだろう。父はため息をついた。

「そういうことなら、ライセンス契約の更新も必要ないだろう。話は済んだはずだ。もう帰ってください」

「無能な老いぼれを首にして何が悪い?全て会社のためだ。俺は間違っていない」

ここまで説明しても、まだ「無能な老いぼれ」呼ばわりするとは呆れたものだ。これ以上家の中で大声を出されても迷惑でしかない。俺たちは怒りが収まらず叫んでいる社長を家から追い出した。社長は家の外に出た後も叫んでいたが、しばらくすると、叫び疲れたのか帰っていった。

それからしばらくの月日が経ったある日、俺が辞めた後も会社に残っていた元同僚が、俺を尋ねてやってきた。元同僚はその後、会社がどうなったのかを俺に話してくれた。

社長は俺たちの前で宣言した通り、最新機械を使って部品の製造を試みたが、当然ながら特殊技術を再現することはできず、粗悪な製品を製造したそうだ。得意先は粗悪な製品の品質低下を認めず、次々に契約を打ち切りました。その結果、会社は倒産寸前まで追い込まれたのです。

俺が作っていた部品と同等の品質のものを作らざるを得なくなった社長は、例の引き抜いてきた男性社員に製造を求めることになった。これに対し男性社員は「話が違う。それは無理だ」と言って、早々に逃げ出したらしい。あれだけ絶大な信頼を寄せていた社員に逃げられた社長は、ひどく取り乱し、狂ったように暴れ出したらしい。

「社長のあの様子を見て、俺もいい加減愛想が尽きましたよ。今は別の会社に転職済みです」

元同僚が苦笑いしながら言った。これまで散々社員をないがしろにしてきた社長に、救いの手を差し伸べる者など誰もいなかったという。あまりにも自業自得で、同情の余地もない。新社長に就任し、会社を改革して利益を上げたいという意気込みは理解できるが、社長はやり方を間違えたのだ。社長は会社を長く支えてきた社員を切り捨て、多くの敵を作ってしまった結果、会社に大損害を与えてしまったのである。

さて、私が現在どうしているのかと言うと、父が生み出した特殊技術を生かすため、父の町工場を復活させた。工場を復活させるにあたって、俺はまず退職していった元同僚たちに声をかけた。すると一流の技術を持つ元同僚たちが続々と集まって、力を貸してくれることになった。頼もしい限りだ。何より職人たちの力が再び集結したことが、この上なく嬉しい。さらにものづくりを志す若者たちも噂を聞きつけて、多く集まってきてくれた。これからは技術を受け継ぎ、後世に伝えていくことも俺の使命だと思っている。世の中がどれだけ科学の進歩を遂げようとも、人の力でしか作り出せないものもあるのだ。俺は父から受け継いだ技術を必ず守り抜いてみせる。

工場には、直樹社長の会社を見限り契約を打ち切った取引先から、途切れることなく注文が入っており、忙しさで悲鳴を上げそうなほどだ。父はかつてのような活気を取り戻した工場を見て、感慨深そうに言った。

「生きているうちに、またこの光景が見られるとは思わなかったよ」

「最高の親父だよ。ありがとう、父さん」

涙ぐむ父を見て、俺は思わず照れ笑いを浮かべた。

「父さんのおかげだよ。さあ、これからはますます忙しくなるぞ」

俺はそんな嬉しい悲鳴を上げながら、気合いを入れた。

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