駅前の商店街で、叫び声を聞いた瞬間、足が勝手に動いた。黒ずくめの男がおばあさんのバッグを奪って逃げていて、気づいたら追いかけていた。追いついてバッグに手をかけたその瞬間、体が宙に浮いた。病院で目が覚めたとき、腕は折れていて全治三か月。母が泣きそうな顔で「無茶しないで」と言った。翌日、学校に行くと校内一の不良に呼び出された。「お前、腕大丈夫か?」え、なぜ謝るのか意味がわからなかった。すると彼は…

駅前の商店街で、叫び声を聞いた瞬間、足が勝手に動いた。黒ずくめの男がおばあさんのバッグを奪って逃げていて、気づいたら追いかけていた。追いついてバッグに手をかけたその瞬間、体が宙に浮いた。病院で目が覚めたとき、腕は折れていて全治三か月。母が泣きそうな顔で「無茶しないで」と言った。翌日、学校に行くと校内一の不良に呼び出された。「お前、腕大丈夫か?」え、なぜ謝るのか意味がわからなかった。すると彼は...

いつも一緒に帰っている幼馴染みに用事があり、その日、俺は一人で帰っていた。すると、女性の叫び声が聞こえた。声のする方を見ると、おばあさんがひったくりに遭っているではないか。俺は急いで犯人を追った。取り逃してしまったものの、犯人は捕まり、おばあさんのバッグは戻ってきた。だが翌日学校に行くと、なぜか校内一の不良に呼び出された。俺と勝負しようぜ、と。

俺は五藤かずま。地元の学校に通う中学二年生。どこにでもいる普通のやつだ。幼稚園の時から幼馴染みである敬語とは、今年も同じクラスになった。俺たちまた同じクラスだな。敬語がいると心強いよ。今年もよろしくな。敬語とは全く性格が違うけど、家が近所ということもあって、俺たちはずっと一緒だ。

今日は終業式だから、お昼前に学校が終わる。敬語、一緒に帰ろう。ああ、悪い。今日は他のクラスのやつの家に遊びに行くんだ。かずも来るか。ああ、俺はいいや。じゃあまたな。おお、またな。人見知りの俺には、話したことがないやつの輪に入るのはハードルが高い。でも敬語はそういうのは気にならないようだ。敬語はすごいな、と思う。

商店街をぶらぶら歩いていると、道にしゃがみ込んでいるおばあさんが叫び声をあげているではないか。見ると、全身黒づめの男がバッグを持って逃げ去としていた。俺は急いで男の跡を追いかける。男の足はそこそこ早かったが、十代前半の俺の方が早かった。すぐに追いつき、男が持つバッグに手をかける。よし、捕まえた、そう思った瞬間、その男に投げ飛ばされてしまった。体中に激しい痛みが走り、そのまま意識が飛んだ。

目が覚めたのは病院のベッドの上だった。全身があちこち痛む。ああ、かず、目が覚めたのね。ああ、お母さん。ここは病院よ。もう心配したのよ。無茶しないでちょうだい。うん、ごめん。でも偉かったわよ。ひったくりからバッグを取り返そうとするなんて。お母さん、それ聞いてびっくりしたわよ。逃しちゃったけどね。でもバッグは無事だったそうよ。それに、近くにいた人がすぐに警察に通報してくれたから、犯人は捕まったみたいね。そっか、それなら良かった。それより腕がすごく痛いんだけど、というと、お母さんは言った。腕が折れてたのよ。全治三か月って言われたわ。え、そうなの?お金かかっちゃうね。お母さん、ごめんね。そんなの気にしなくていいのよ。という時のためにちゃんと貯金してあるから。かずまが無事ならそれでいいの。お金のことは心配しないでね。かずは怪我を直すことだけ考えなさい。そんな話をしていると、病室のドアが開いた。あ、さっきの。先ほどはありがとうございました、と、しわの深いおばあさんが礼を言ってきた。三島と申します、と名乗る。あ、五藤かずです、と返すと、おばあさんはじっと俺の顔を見て、誰かに似てるような……とつぶやく。キリっとした目、誰だったかな。さんは顔立ちが整っていたから、テレビの中の人かもしれないと自分を納得させた。その間にも母と三島さんは話をしていて、これ、皆さんで召し上がってください、と手土産を置いていく。まあ、ご丁寧にありがとうございます、と母が礼を言うと、三島さんは言った。おかげ様で私は無傷です。それよりも、息子さんのお怪我の方が心配です。こんなひどい怪我をさせてしまって、治療費はこちらで負担させてください。いえいえ、そういうわけにはいきません。この子が好きでやったことですから、と母は断る。そうはいきません、と三島さんは譲らない。とても勇気のある行動に感動を受けました。遠慮はしないでください。また後日改めてお話に伺います、そう言って頭を下げたかと思うと、背筋を伸ばした後ろ姿は、とても普通の人には見えない。ただ物ではないような気がした

次の日、三島さんがうちを尋ねてきた。昨日は本当にありがとうございました、とまた頭を下げる。おばあさんが無事で良かったです、と返すと、三島さんは言った。そうですよ、だからそんなに頭を下げないでください。私にも、かず君と同い年の孫がいるんです。その孫に何かあったらと考えると、立ってもいられません、とかず君のお母さん、本当に申し訳ありませんでした、と、治療費の他にも何かありましたら遠慮なくご連絡ください、と言って、手土産に持ってきた高級和菓子の詰め合わせを置き、深々とお辞儀をして帰っていった

次の日学校に行くと、包帯でぐるぐる巻きになった俺の腕を見て、敬語は勢いよく駆け寄ってくる。おい、かず、大丈夫かよ、と、このざまだよ、と返すと、敬語は言った。おばさんから聞いたよ。お前は昔から、自分を犠牲にしてまで人助けをするところあったもんな、本当すげえよ、俺はお前のそういうところ尊敬してる、と、いきなりなんだよ、照れんなよ、と返すと、敬語は笑った。クラスメートも包帯巻きになった俺を見て、何があったんだと事情を聞いてくる。その時だった、教室のドアがバーンと勢いよく開いた。その音に、教室がしんと静まり返る。おい、五藤かずはいるか?はい、俺ですけど、と呼びに来たのは、隣のクラスの岩田かなだった。岩田さんは校内一の不良と言われていて、かなりやばい人という噂も聞こえてくる。小学生の頃から我とない先輩とつるみ、毎日のように喧嘩をして負け知らずだとか。そんな人に小心者の俺が呼ばれるはずがないのに、恐ろしくて理由を聞けない。おお、かず、お前何したんだよ、と敬語が心配して声をかけてくるが、わ、わかんない、としか言えない。でも行くしかないよな、と、お待たせしました、と言われて、岩田さんの後をついていくと、校舎裏に着いた

おい、腕大丈夫か?ああ、これですか?利き手だからちょっと不便だけど、まあ問題ないですよ、と返すと、岩田さんは言った。そうか、ごめんな、と、え、なんで岩田さんが謝るんですか?と聞くと、お前が助けてくれたのは、私のばあちゃんなんだ、と、ああ、誰かに似てると思ったら岩田さんか、とはあ、すっきりした、とつぶやく。だから本当にありがとな、と言われて、おばあさんが無事で良かったです、と返すと、岩田さんは言った。お前優しいんだな、と、え?と聞き返すと、いや、なんでもない、とごまかす。それで、ばあちゃんがお前にお礼をしたいから、今度家に呼べって言ってるんだ、来てくれないか?家にですか?と聞くと、無理か?と返ってくるが、無理ってことはないですけど、と答えると、そうか、じゃあ決まりだ、ばあちゃんも喜ぶよ、と岩田さんは言った。なんかどうしても話したいことがあるみたいなんだ、悪いな、そう言って、ニコっと笑った。普段の印象とはかけ離れたその笑顔が、とても可愛く見えた

話を終えて教室に戻ると、みんな俺を見て何か言いたそうな表情をしている。かず、大丈夫だったか?何があったんだよ?と聞かれて、うん、それがさ、と言いかけたところで、ホームルーム開始のチャイムが鳴ってしまい、俺と敬語の会話は途切れてしまった。昼休みにでも話そうと思ってたら、利き手を怪我している俺は給食を食べるのに時間がかかってしまい、話す時間が取れなかったんだ。敬語と話せたのは放課後だった。え、助けた人って、岩田さんのおばあちゃんだったのか、と驚かれる。うん、俺も驚いたよ、と返すと、敬語は言った。このおばあちゃんも若い頃はやんちゃだったのかな?どうなんだろうな、それで岩田さんの地に行くのか?うん、断りづらかったし、と、マジで大丈夫かよ、と心配されるが、そんなに警戒しなくても大丈夫だと俺は思ってる、と返すと、油断するなよ、相手は校内一の不良なんだぞ、と言われて、あ、うん、としか返せない

敬語が心配してくれる中、岩田さんの家に行く日を迎えた。俺は教えてもらった住所の場所に着いたんだけど、あまりの家の大きさに驚く。え、ここ、人を見かけで判断しちゃいけないんだろうけど、岩田さんもおばあさんも裕福といった雰囲気ではない、と、だからと言って貧乏にも見えなかったけど、表札の名前は岩田さんの苗字ではない、三島になっているぼくは恐る恐るインターホンを鳴らした。はい、と返ってきて、あ、五藤です、と名乗ると、ああ、よく来てくれたな、今ドアを開けるから待っててくれ、と言われて、お、お邪魔します、と入っていくと、そんなにかしこまるなよ、上がって上がって、と言われる。ここって、岩田さんの家?と聞くと、ああ、私はばあちゃんと一緒に住んでるんだよ、両親はいるけど海外出張ばっかでほとんど家にいないから、昔からそんな感じだよ、と、そうだったんだ、とつぶやく。ばあちゃん、かずが来たよ、と呼ぶと、まあ五藤君、今日は本当にありがとう、お母さんが来れなくて残念だけど、お土産をたくさん用意したから持って帰ってね、と、あ、はい、と返すと、さあ、座ってちょうだい、ご飯にしましょう、と言われて、いただきます、と、すごく美味しいです、と食べると、それは良かったわ、たくさん食べてちょうだいね、とおばあさんは喜んだ。岩田さんは料理がうまいんだ、と岩田さんが教えてくれた。岩田さんは学校での雰囲気とは違って、おばあさんと話してる時は満面の笑顔を浮かべていた。学校にいる時は近寄りがたい雰囲気を出しているのにな、そんな岩田さんのギャップに驚きを隠せなかった

俺が何を考えてるか、岩田さんは察したのだろう、かな、どうした?え?ああ、えっと、なんだ、と聞かれて、岩田さんって本当に不良なんですか?と聞くと、岩田さんは笑った。そんなに怖がるなって、自分では分からないけど、そう思うならそうなんじゃない?と、不良ですって自分から言う人はあんまいないような気もするし、と返すと、それもそうだな、と、じゃああれは、あれ、もしかして私が学校で一番喧嘩が強いって噂?と、私より喧嘩が強いやつなんていっぱいいるよ、と、色々と噂が立ってるんだな、とつぶやく。岩田さんは目立つから、たくさんの人が注目するよね、自分と違うやつのことは誰だって気になるだろう、私だってかなながこんなに喋るやつだなんて思わなかったし、ばあちゃんを助けるほど勇敢に見えなかったよ、と、岩田さんは言った。そうですよね、と、だからかのことに興味があるんだよ、と言うと、え?と岩田さんは驚いた。ああ、でも俺も岩田さんのこと気になりますよ、と返すと、え、私、私はって普通の中学生だよ、と、いや、普通ってことはないかも、と、うるせえな、と,岩田さんは口をとがらせるが、ごめんなさい、と謝ると、笑い出した。なんだかこのやり取りが面白くって、お互いに顔を見合って笑い出す

そこへおばあさんがやってきて、短い時間で随分仲良くなったのね、おやつ置いておきますよ、と、だってばあちゃん、かずが面白いんだもん、と岩田さんが言うと、岩田さんこそ、いいお友達ができてよかったわね、とおばあさんは言った。友達か、と岩田さんは少し寂しそうにつぶやいた。俺はそれがすごく気になった. ところで、この家すごく素敵ですね,俺アパートだから一軒家って憧れます,と話題を変えると,あらそう,ありがとうね,とおばあさんは言った,私の理想ばかりを詰め込んだらこうなっちゃったのよ,と,どれもこれも見たことないものばかりです,と俺が言うと,ばあちゃんは三島っていう貿易会社の会長なんだよ,だからそれなりにね,と岩田さんが言った,三島貿易って,あの,と俺が驚くと,そんなに驚くことはないだろう,と言われた,めちゃくちゃ驚くよ,この辺りで三島貿易を知らない人はいないだろう,ただ物じゃないとは思っていたけど,本当にすごい人だったんだ,と三島貿易は知らない人がいないくらい超大手企業じゃないか,と,かんナちゃんもいずれは三島貿易で働くのよね,とおばあさんが言うと,ばあちゃん余計なこと言うなって,私の頭じゃ入れるわけないじゃん,と岩田さんは怒る,そんなことないわよ,かなちゃん勉強頑張ってるじゃない,と,もう余計なことばっか言って,あっち行っててよ,と岩田さんはおばあさんを追い払う,はいはい,邪魔しちゃってごめんなさいね,五藤君ゆっくりしていってね,とおばあさんは笑ってその場を離れた

岩田さんって色々とすごい人なんだね,と俺が言うと,ばあちゃんがすごいだけで,私がすごいわけじゃないよ,と岩田さんは言った,あーちゃんや両親は何でもできるけど,私は全然ダメなんだ,と,全然ダメって何かあったの?と聞くと,かななら話してもいいかな,と言って,岩田さんはゆっくりと話し始めた,私ね,小学校までは私立の学校に行ってたの,でも勉強も運動も他の子に比べて全然できなくて,どんどん落ちこぼれていった,それから学校に行くのが嫌になっちゃって,中学校は地元の公立にしたの,それが今のところ,と,ばあちゃんも両親もすごいのになんで私だけダメなんだろうって,それにずっと両親がいなくて寂しかったし,学校行事は私だけいつもばあちゃんで,本当は両親にも見て欲しかったんだ,と,小学校を卒業した春休みに一人でフラフラしてたら,今の先輩に声かけられて,こんな感じになったってわけ,どうしようもないだろう,と,両親はがっかりしてるけど,ばあちゃんだけは味方でいてくれてるんだ,見た目は変わっても,かんナちゃんはかんナちゃんよって,と岩田さんは少し寂しそうな表情を見せる

俺もちょっとだけその気持ち分かるかも,と俺が言うと,え,と岩田さんは驚いた,俺んち母子家庭だから,母さんも仕事で忙しそうで,学校行事とかあんまり来てくれてた覚えがないんだ,寂しいって気持ちはあったよ,母さんが働かないと生活できないから,仕方ないんだけど,でもみんなの親は来てるから,自分の親だけいないのはやっぱり寂しかったよ,と俺が言うと,私たち,少しだけ似てるかもしれないね,と岩田さんはつぶやいた

少しの時間ではあったけど,岩田さんと話したことで彼女のことが知れた気がした,岩田さんよかったら,俺たち友達にならない?と俺が言うと,友達?私とか真面目と不良が友達か,面白いかもしれないね,と,いいじゃん,友達になろうよ,と言うと,友達ってどういうもんかよく分かってないけどな,と岩田さんは笑った,じゃあ今日から友達ってことで,はいよ,よろしく,うん,自分から友達になろうと言ったけど,特に何かするとかは考えていなかった,ただ少しだけ自分と似てるから,親近感が湧いたのかもしれない,不良なんて遠い存在だと思ってたけど,岩田さんを知って彼女は不良じゃないと分かったから,それに岩田さんのことを少し意識している自分がいた

学校では相変わらず校内一の不良って呼ばれ怖がられてるけど,俺のそんな気持ちはすっかりなくなっていた,だけど学校で気やすく岩田さんに話しかける勇気は俺にはない,廊下ですれ違った時に目で追ったりするくらいで,岩田さんから話しかけてくることもなかった

そんな中,俺たちの距離が急接近する事件が起きたんだ,それは学校からの帰り道,敬語と並んで帰っていると岩田さんが不良仲間とじれ合ってる姿が見えた,でもなんか岩田さんは楽しんでるようには見えない,あれ,岩田さんじゃね?やっぱ不良と一緒にいるんだな,と敬語が言うと,そういえば岩田さんち行ったんだよな,どうだった?と聞かれるが,岩田さんは嫌がってるようなのに不良たちはどこかへ連れて行こうとしている,敬語,ごめん,俺行かなきゃ,と俺が言うと,え,おい,行くってどこに?と敬語は止めるが,敬語の声を無視して俺は岩田さんの方へ駆け寄った,岩田さんか?と声をかけると,誰だお前?俺たちに何か用か?と不良たちがにらんでくる,岩田さんを話せ,嫌がってるだろう,と俺が言うと,なんだよ,かな,お前いつの間に彼氏作ったんだよ,弱そうなやつだな,受けるんだけど,と不良たちは笑う,ああ,なるほどな,こいつのせいでとつむのやめたいって言ってんだな,と,関係ねえよ,いいから早く話せよ,なかなかいい性格してるな,それじゃあさ,俺たちと勝負しようぜ,勝負に勝ったらかなを話してやるよ,どうする?と不良たちは言う

喧嘩なんて人生で一度もしたことがない,でもやるしかないよな,よし,と俺が覚悟を決めると,おい,かず,無茶はよせ,と敬語が止めるが,おら,行くぞ,と先輩の拳が俺の頭部に振りかかる,俺は目をつぶることしかできなかった,お回りさんこっちです,と,その声が聞こえたのは,敬語が警察を呼んでいたからだ,やべえ,警察なんて面倒だ,おい,みんな行くぞ,と,その声を聞いた途端,先輩たちはダッシュで逃げていった

おい,大丈夫か?と敬語が駆け寄る,敬語,いきなり走り出すから驚いたよ,お前本当に足が早いんだからさ,と俺が言うと,岩田さんも大丈夫か?と敬語が聞く,おお,かずは大丈夫か?てかなんで私のことを助けたんだよ?と岩田さんは驚いた顔で言う,わかんない,体が勝手に動いてた,と俺が返すと,危ないことするなよ,と,岩田さん,さっきの奴らが言ってたこと本当なの?ばあちゃんも心配してるしさ,と敬語が言うと,かずま,敬語,ありがとうな,と岩田さんはにっこり笑って帰っていった

岩田さんって笑うんだな,それにお前たち妙に親しそうだけど,と敬語が言うと,そうだよ,何があったか話せよ,と,ああ,うん,と俺は説明した,敬語も岩田さんの表情には驚いたようだった

それから数日後のことだ,岩田さんは顔に少し傷を作って登校してきた,校内ではまた喧嘩に勝ったとか隣町の学校に乗り込んだとか色々な噂が流れてる,でもその傷の理由を俺と敬語は知っていた,この前日の帰り道で公園に傷だらけの岩田さんを発見したんだ,岩田さん,その傷どうしたの?と聞くと,はあ,これ,この間の先輩たちと蹴りをつけてきたんだよ,と岩田さんは言った,何をしたんだよ,と,それは内緒,とにかく絆を消毒しないと,と俺は近くのドラッグストアで消毒液と絆創膏を買い,急いで岩田さんの元へ戻った,何をしたかまでは教えてくれなかったけど,とつむのをやめたらしい,そういえば,かずって足が早いな,と敬語が言うと,こいつ幼稚園の時からリレーに選ばれてたんだぜ,と,そうだったんだ,足が早くて役に立つ時が来るなんて思わなかったけどね,と,岩田さん先輩たちとつむのをやめるって言ってたけど,その言葉遣いもやめるの?と,そうだな,多分やめたらもっと可愛くなるよ,え,いや,岩田さん笑うと可愛いからさ,その言葉遣いもあってみんな怖がっているのかなって思うんだ,と,そうそう,岩田さんってもっと怖いかと思ってたよ,と,そっか,かずがそう言うならやめようかな,と岩田さんは笑った

それから岩田さんは不良たちとつるむことはなくなった,長かったスカートの丈も言葉遣いも変わり,勉強にも励んでいるようで,みんなは驚きの言葉を口にする,それだけじゃない,雰囲気も柔らかくなり,岩田さんが可愛くなってると噂になっている,その変化は嬉しいはずなのに,なんだか複雑な気持ちだ,俺はこの時初めて,岩田さんを好きになってる自分に気づいた,でも受験も控えたこの時期に告白するわけにはいかない,岩田さんが目指している高校は,俺が目指してるところよりもずっと上のランクだ,その邪魔をするわけにはいかないよな,だから中学を卒業する日に告白しようと決めた

あれ以来俺たちは仲良くなり,いつの間にか一緒にいるようになっていたんだ,だから受験のために図書館で二人で勉強するようにもなった,元々頭のいい岩田さんのおかげで,分からない問題もなんなく解ける,俺は岩田さんの勉強の邪魔になってるんじゃないかという心配はあった,俺岩田さんの勉強の邪魔になってない?と聞くと,全然邪魔じゃないって,何度も言ってるでしょ,かずと一緒に勉強しているとむしろやる気になるよ,と岩田さんは笑った,そっか,ありがとう,図書館からの帰り道,かずま,と岩田さんが神袋を手渡してきた,そっと開けてみる,あ,手袋だ,俺に,そうだよ,と,ありがとう,と,受験前に手が冷えるのは良くないからって,ばあちゃんが編んでくれたんだ,ちなみに私も,と岩田さんも同じ手袋をはめている,お,色違いか,いいね,と,よかった,色違いは嫌だって言われたらどうしようって思ってたの,と,嫌なわけないよ,むしろ嬉しいよ,そう言った後に顔が赤くなる,岩田さんも照れていたのか,顔が赤くなっていたような気がした

そして受験を終えて合格発表の日,お互い結果を見たら公園に来て報告し合うと約束をした,だがなかなか岩田さんが現れず不安が募る,かずま ,たせてごめん,と岩田さんが息を切らせてやってきた,どうだった?と聞くと,合格してた,と,やったね,おめでとう,と,ありがとう,かずまは?と,俺も受かってたよ,と,よかった,お互い頑張ったもんな,と,え,でも春から別々の学校か,岩田さんは高校入学後は電車通学になるが,俺は自転車で通える地元の高校に通う,まあ,遠くに引っ越すわけじゃないしさ,お互いの夢が叶ったんだから,と俺が言うと,そうだね,と岩田さんはうなずく,本音を言うと俺だって寂しいよ,でも岩田さんの夢を応援したいっていう気持ちも本当だよ,休みの日はまたこうして会おうよ,と,うん,そうだね,と岩田さんは笑った

受験も終わって一区切りついた俺たちに残るのは卒業式,敬語には告白することを話してある,かず,本当に言うんだな,と,ううん,そっか,頑張れよ,お前なら行ける,岩田さんが変わったのもかずのおかげだもんな,それに二人を見てるといい感じだよ,何かあったら協力するからな,と,お,サンキューな,式を終えて最後のホームルームも終わり,俺は席を立った,敬語の方を見ると,親指を立てて声援を送ってくれる,岩田さん,と呼びかけると,ああ,かず,どうしたの?と,ちょっといいかな?と,うん,そして俺はあの日岩田さんに呼び出された校舎裏へと向かった

ここって?と岩田さんが首をかしげる,そう,俺たちが初めて話した場所,と,ここが何か?と,ああ,俺がこだわっただけ,と,俺さ,岩田さんのことが好きなんだ,と告白すると,え,かずが私を? 本当に私でいいの?

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不良で評判悪かったよ,と岩田さんは動揺する,そんなの知ってるよ,でも俺には関係ない,岩田さんは優しい人だって俺は知ってるから,おばあちゃん思いの素敵な子だって,だから俺は好きになったんだ,俺と付き合ってください,と頭を下げると,まさか告白してくれるなんて,なんとなく気づいていたんだけどね,だけどかずから告白してくれることはないって思ってたから,私から言おうって思ってたの,でも先に言われちゃった,私もかずが好き,どんな私でも受け止めてくれたのはあーちゃんとかずだけ,これからもよろしくね,と岩田さんは笑った

うわあ,かんナちゃんおめでとう,と,その声に振り返ると,え,ばあちゃんなんでここに?と岩田さんは驚く,さっき男の子に聞いたら多分ここにいるって言ってたのよ,と,おそらく敬語だな,と俺は思う,いや,もう本当におばあちゃん嬉しいわ,かず君,かナちゃんのことをお願いね,この子ね,不器用だけど本当はすごく優しい子なの,と,あ,はい,俺の方こそよろしくお願いします,と頭を下げると,私ね,かず君に会った時からかんナちゃんといいコンビになると思ってたの,長生きするから結婚まで見届けさせてね,とおばあさんは言う,け,結婚ですか?と岩田さんが赤面する,ばあちゃん気が早すぎだよ,と,ああ,痛い,た,おばあさん,足早すぎですよ,と,敬語,と,かず,ごめん,邪魔しちゃったな,と敬語は頭をかく,おばあさんに待ってもらおうと思ったら走って行っちゃったからさ,慌てて追いかけようとしたら後輩に捕まっちゃって,でもその様子じゃうまくいったみたいだな,と,俺は何も言わずに親指を立てる

高校は別になってしまったけど,俺たちは順調に交際を続けた,そしてかなは大学に進学,俺は地元の中小企業に就職し,将来のために一生懸命に働いた,かななが大学を卒業する日にプロポーズするためだ,この日のためにお金を貯めて夜景の見えるレストランを予約する,私のためにこんな素敵な場所を用意してくれてありがとう,とかななが言うと,かず,私の気持ちはあの頃から変わってないよ,と,うん,かなさん,俺と結婚してください,とプロポーズすると,もちろんです,とかながは応えた,母ちゃんもずっと楽しみにしてる,そうだよね,俺もこの日をずっと待ち望んでた,まそばにいてください,と

それから一年ほどしてかなの両親が一時帰国,そのタイミングで挨拶に行くと,涙ながらに喜んでくれた,かな ,今までごめんな,お前のことを考えていたつもりだったが,無理させてたんだよな,これからは自分の好きな道を自信を持って歩んでいきなさい,と父親が言うと,お父さん,とかながは泣き笑いする,かず君,今までかなを支えてくれてありがとう,私たちの至らなかったところを君が埋めてくれていたんだね,そんなかず君がくれるなら安心だ ,これからもかなのことをよろしく頼むよ,と,はい,もちろんです,と頭を下げるとき,そこでかず君は三島貿易に入る気はないかな?と父親が切り出した,俺がですか?俺なんかに三島貿易は分不相応です,と遠慮すると,かず君みたいに勇敢で優しい人材こそ三島貿易には必要なんだよ ,かなもかず君が会社にいてくれた方がより安心だと思うんだ ,かず君さえよければ三島貿易に来てほしい,昨日家族みんなで話し合ったんだ ,君に三島貿易に来て欲しいというのは全員の総意だよ,と,本当ですか?と顔を上げると,かずがいなければ今の私はなかった,私を救って助けてくれたのはかずなんだよ,かずには人を変える力がある,とかながが言い ,かなの言う通りだ ,かず君のその力をうちで発揮してほしい,と父親は続けた,わかりました ,俺を三島貿易で働かせてください,と一礼すると,よかったわ,とおばあさんが涙を拭いながら微笑んでいた

俺が三島貿易に転職し,仕事に慣れた頃に式を挙げた,母は立派になったととても喜んでくれた ,かず,おめでとう,今まで苦労をかけてごめんね,と,そんなことない ,俺はお母さんのおかげでここまで成長できたんだから,それに心配をかけたのは俺の方だよ ,今まで育ててくれてありがとう ,これからは俺に親孝行させてよ,と言うと,母は式が始まる前から大号泣した

式が終わるとおばあさんが小さな箱を手渡してきた,中に入っていたのはおばあさんが大切にしていたアルバム,かんナちゃんはね ,小さな頃から真面目が強い子だったの ,両親がいなくて寂しいはずなのに弱音も吐かず勉強も運動も一生懸命頑張ってたわ ,ただ一人で抱え込んじゃうところが心配だったの ,でもかず君がいれば安心ね ,今日で私の役目はもう終わり ,これからは二人を見守るのが私の役目ね ,それとひ孫を楽しみにしてるわよ,と,いつまでも見守っててください ,ばあちゃん,今までありがとう ,ばあちゃんのことずっと大好きだよ ,とかながはアルバムを抱きしめた

結婚後も俺はかなと三島貿易で働きながら楽しい毎日を送っている ,おばあさんが楽しみにしているひ孫はまだ先になりそうだ ,二人きりの生活を満喫したい気もするけど ,お母さんに初孫を見せてあげたいという気持ちもある ,まあ ,こればっかりは神のみぞ知る領域だな,と俺は笑いながら,今日もかなと二人で帰路につくのだった