「寿司も出せないの?貧乏人。」嫁のその一言で、68歳の私は凍りついた。お盆の朝、心を込めて用意した手料理を前に、息子の嫁は鼻で笑い、息子までもが「母さん、美和の言うことも一理あるよ」と妻の肩を持った。それから二人は、私の通帳を勝手に開き、「どうせ死んだら全部俺のものになるんだから」と平然と言い放った。私は震える手で、ある人物に電話をかけていた。彼らが知らない、私の秘密を抱えて。…
「寿司も出せないの?貧乏人。」 その言葉を聞いた瞬間、68歳の私の手から茶碗が滑り落ちた。まさか、息子の嫁である美和から、こんな言葉を投げかけられるとは思ってもみなかった。 お盆の朝、私は亡き夫の仏壇に手を合わせ、今年も息子夫婦が帰省してくることを報告していた。朝から心を込めて料理を準備し、玄関先も丁寧に掃除して、二人の到着を待っていた。 午前10時過ぎ、玄関のチャイムが鳴り、1年ぶりに息子の優斗と嫁の美和が姿を現した。 「ただいま。」 優斗の声は相変わらず素っ気なく、美和は私の顔も見ずに家に上がり込んだ。そして、リビングのテーブルに並べた手料理を一瞥すると、鼻を鳴らして言い放った。 「なんだ、寿司も用意してないの。お盆なのに。こんな質素な料理だけ?」 私は言葉を失った。朝5時から起きて準備した品々、息子の好物だったから揚げまで用意したというのに。 「あの…寿司は夕食に出前を取ろうかと思って…」 私がそう答えると、美和は鼻で笑いながら、あの衝撃的な言葉を口にした。 「寿司も出せないの?貧乏人。」 その瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れていくのを感じた。 私は決して裕福ではなかったが、息子の将来のためならと、自分たちの老後資金を削ってでも教育費を工面してきた。大学進学時には退職金を前借りしてまで学費を用意した。総額にして800万円。それでも、息子の幸せそうな顔を見れば、全てが報われる思いだった。 5年前、夫が他界してからは、一人でこの家を守ってきた。 しかし、いつからだろうか。息子夫婦の態度が変わり始めたのは。私の存在はまるで邪魔者とでも言わんばかりに、連絡も疎遠になった。年に2回、お盆と正月だけの帰省。それも、まるで義務を果たすかのような素っ気ない態度で、滞在時間も年々短くなっていった。 「お母さん、また来年。」 去年の正月は、そう言い残して足早に帰って行った。その背中を見送りながら、私は言いようのない寂しさを感じていた。 それでも、息子家族が幸せならそれでいい。そう自分に言い聞かせて、今日まで生きてきた。 しかし、今朝の美和の言葉は、私の心に深い傷を残すことになった。 美和の「貧乏人」という言葉に打ちのめされた私だったが、それはまだ序章に過ぎなかった。 「母さん、美和の言うことも一理あるよ。せっかくのお盆なんだから、もう少し豪華な食事を用意しても良かったんじゃない。」 息子の優斗までもが、妻の肩を持つような発言をした。 私は信じられない思いで息子の顔を見つめた。 「でも、優斗。あなたの好きなから揚げも作ったし、煮物だって朝から…」 「いや、そういう家庭料理じゃなくてさ、もっとこう、ちゃんとした料理っていうか…」 優斗の言葉を遮るように、美和が立ち上がった。 「お母さん、はっきり言わせてもらいますけど、私たちだって忙しい中、わざわざこんな田舎まで帰省してあげてるんですよ。それなのに、こんな質素な食事しか用意できないなんて、ちょっと配慮が足りないんじゃないですか?」 私は言葉を失った。「帰省してあげている」という表現に、胸が締めつけられる思いだった。 「じゃあ…お寿司を注文しましょうか。何がお好みですか?」 私が提案すると、美和は携帯電話を取り出しながら言った。 「高級寿司じゃないとダメですよ。最低でも1人前5000円以上の。安い回転寿司なんかじゃ、せっかくの帰省が台無しですから。」 5000円?3人分で1万5000円。年金暮らしの私にとって、決して小さな金額ではない。 「何を渋ってるんですか?お母さん、年金もらってるでしょう。それに、亡くなったお父さんの遺族年金だってあるはずです。」 仕方なく、私は高級寿司店に電話をかけた。注文を終えると、美和は満足そうに微笑んだが、その後の行動はさらに私を傷つけるものだった。 「お母さん、冷蔵庫に何か飲み物ある?」 そう言いながら、返事も待たずに台所へ向かった美和は、勝手に冷蔵庫を開け始めた。 「なんだ、ビールもないの?お客様をもてなす気持ちってものがないんですね。」 お客様。息子の嫁が、自分のことを「お客様」と表現したのだ。 「すみません。お酒は最近控えていて…」 「じゃあ、優斗がコンビニで買ってきて。ついでにおつまみも。お母さんからお金もらって。」 当然のように私に支払いを求める美和。優斗も、疑問を持つことなく手を差し出してきた。 「1万円でいいかな?」 私は震える手で財布から1万円札を取り出し、息子に渡した。 優斗が外出した後、美和は部屋の中を物色し始めた。 「この家、結構古いですけど、土地は広いですよね。売ればかなりの金額になるんじゃないですか。」 突然の発言に、私は驚きを隠せなかった。 「売るつもりはありませんよ。主人との思い出が詰まった家ですから。」 「思い出なんかじゃ生活できないでしょう。もっと現実的に考えないと。」 優斗が戻ってくると、二人は買ってきたビールで乾杯を始めた。私には一言の断りもない。まるで私がこの家にいないかのような振る舞いだった。 お寿司が届くと、二人は我先にと高級な大トロやウニを頬張り始めた。私には「年寄りは油っこいものは控えた方がいい」と言って、かっぱ巻きと玉子焼きしか進めてこない。 食事が終わると、美和はまた爆弾発言をした。 「お母さん、この家の固定資産税、大変でしょう。年金暮らしで、維持費だけでも相当な負担じゃないですか?」 「まあ、何とかやりくりしていますから。」 「やりくりって言っても限界があるでしょう。それより、この家を売ってもっと小さなマンションにでも移ったらどうです?余ったお金は、私たちが管理してあげますから。」 「私たちが管理」。その言葉に、ようやく二人の本当の目的が見えてきた。 … Read more