「残念ながら君は左遷だ」――お見合い前日に、営業トップの俺は窓際部署に飛ばされた。妬んだ部長の嫌がらせだと分かっていたが、何も言い返せなかった。お見合い当日、美人で気が合う社長令嬢に、俺は正直に打ち明けた。「俺のことはやめておいた方がいいと思います」――すると彼女は潤んだ目で俺を見つめ、手を取って言った。「でも、私はあなたのことが」――その瞬間、俺の人生が動き始めた。しかし、その裏で部長はも…

「残念ながら君は左遷だ」――お見合い前日に、営業トップの俺は窓際部署に飛ばされた。妬んだ部長の嫌がらせだと分かっていたが、何も言い返せなかった。お見合い当日、美人で気が合う社長令嬢に、俺は正直に打ち明けた。「俺のことはやめておいた方がいいと思います」――すると彼女は潤んだ目で俺を見つめ、手を取って言った。「でも、私はあなたのことが」――その瞬間、俺の人生が動き始めた。しかし、その裏で部長はも...

「残念ながら君は左遷だ」――そう告げられたのは、会社の大手取引先の社長令嬢とのお見合いを前日に控えた日のことだった。俺は営業部でトップの成績を誇っていたのに、それを疎ましく思った部長の嫌がらせで、窓際部署に飛ばされてしまった。

お見合い当日、美人で気が合う社長令嬢に、俺は正直に今の状況を打ち明けた。「俺のことはやめておいた方がいいと思います。俺、左遷になってしまって」――言葉が続かない。もう終わりだと思った。

しかし彼女は潤んだ目で俺を見つめ、手を取ってそっと近づいてきた。

俺の名前は日野量。IT企業の営業として働き、システム開発にも携わっている。新卒で入社した頃はやる気がなかったが、人一倍努力して若くして主任の役職をもらった。部下を育てる楽しみも増え、順風満帆な会社員生活を送っていた。

そんなある日、中途採用で大手同業他社から胃嵐孝介さんが部長職として入ってきた。彼から他社のノウハウが聞けると期待したが、それは大きな間違いだった。

「日野君の業績だが」――胃嵐さんはわざわざ俺の席まで来て、先月の業績表を手に言った。「営業部で君がトップみたいだね。すごいよ」

褒められたと思ったが、彼は続けた。「何かと営業先に気に入られているみたいだね。コツでも教えてもらいたいよ。金でも渡しているのか?それとも弱みを握っているのか?」

意味が分からず呆然としていると、胃嵐さんは顔を歪めて言った。「無視かい?営業部のエースは随分といいご身分だな」

そして業績表をビリビリと破り、「そのゴミ片付けておいてくれ」と足元の紙屑を指差して去っていった。

同僚が心配して声をかけてきた。「日野、大丈夫か?実は胃嵐さんが他の人に言っているのを聞いちゃったんだけど、お前が若いのに営業トップなのがおかしいとか、何かあるんじゃないかとか、妬んでるみたいなんだよ」

以来、胃嵐さんは何かと俺につっかかってくるようになった。仕事がうまくいくと「日野の営業先は優しいんだな」と嫌味を言い、些細なミスをすると「調子に乗ると痛い目を見るんだな」と嬉しそうに笑う。上司である上に副社長の親戚らしく、言い返すこともできない。

溜まった鬱憤を晴らすため、俺は繁華街の居酒屋で一人酒を煽った。元々アルコールには強い方だが、その日はひたすら飲んだ。少し酔いが回り始めた頃、足元にスマートフォンが転がり落ちてきた。隣の女性が落としたらしい。

拾って差し出すと、彼女の美貌に息を飲んだ。映画のヒロインのような輝く瞳に白い肌。俺が見惚れていると、彼女のスマホに着信が表示され、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。

「嫌な相手なんですか?」酔っているからか、見知らぬ相手に気軽に話しかけていた。彼女も不審がらずに答えてくれた。「はい。合わない相手で」

「分かりますよ、その気持ち。せっかく忘れるために飲んでるのに、嫌なことを思い出させないで欲しいですよね」

「まさに俺の言いたいことを口にしてくれた」――俺も数分前に胃嵐さんから業務メールが届き、その中に嫌味が紛れ込んでいたからだ。

彼女と俺はよく似ていると感じた。人間関係に煩わしさを感じ、酒に頼っていること。話しているうちに、悩んでいるのは俺だけではないと心が楽になった。

翌朝目が覚めると、そこは自分の家ではなくビジネスホテルだった。しかも別のベッドに女性が眠っている。昨晩途中から一緒に飲んでいた人だ。慌てて起こすと、彼女は寝ぼけまなこで「おはようございます」と頭を下げた。

「あの、覚えてらっしゃるんですか?ここに来た時のこと」

「え、あなた随分酔っ払ってしまって、タクシーにも乗せられない状態でしたので、お店近くのビジネスホテルに。私も結構酔ってましたので、特に何も考えずに同じ部屋を取ってしまったみたいですね」と苦笑いする。

宿泊費は俺が払うと言い張り、彼女を駅まで見送って会社に向かった。すると社長に呼び出された。何かやらかしたかと心配したが、要件は全く違った。

「大手取引先の社長が、うちの社長と仲がいいらしい。先方の一人娘を見合いさせたいのだが、社長には息子がいない。他に選ぶなら実力や経験のある人材から、ということで君を抜擢したんだ」

俺は舞い上がってしまった。しかし見合いの話はあっという間に社内に広まり、胃嵐さんがつっかかってきた。「君は35歳だったか?俺にも同じ年の息子がいるんだが、何もかも違うな。顔も頭もよく金も持っている。君なんて他の会社に行ったら何の役にも立たないんだからな」

見合い前日、人事部長に呼び出された。「日野君、君は胃嵐部長に嫌がらせをしているそうだね」――言いがかりだと反論するが、聞く耳を持たない。「胃嵐部長の仕事を邪魔したとも聞いた。証拠も提出されている」と、俺が胃嵐さんを新入りだと苛めている内容のメールを見せられた。もちろん心当たりはない。メールの差出人は俺になっているが、捏造できる。

「待ってください。そもそも胃嵐さんが」

「あのな、胃嵐部長の邪魔をするなら君は左遷だ」

左遷?人事部長と胃嵐さんは仲が良かった。昔職場だったという噂もある。もしかしてこれも胃嵐さんの嫌がらせの一つなのか?

「いくら成績が良くても、社内の輪を乱すような人物が大きな顔をするのは良くない。君は営業部から外れてもらう」

俺の座席は移動させられ、仕事は全て胃嵐さんに取り上げられた。「中途半端に仕事を残したお前の代わりになってやるんだから感謝して欲しい」と。そして「こんなお前が見合いなんてうまくいくはずがないだろうな。破談は確定だ」とも言われた。

移動した先は事務部という名の雑用部署。電話の取り次ぎや掃除などの業務しかさせてもらえない。ここに来た人は誰もが半年以内に辞めると言われている。俺は眠れぬ夜を過ごした。

お見合い当日、社長に「大丈夫か?緊張しているのかね?」と聞かれ、俺は左遷されたことを話すべきか迷った。胃嵐さんのことだから、俺に責任をなすりつけて社長に取り入ろうとするだろう。俺が左遷となったらお見合いは破談だろう。社長に今のうちに言っておかなくては。

しかし気がつけば個室に通され、相手方が待っていた。こちらを見る女性は写真よりも美しく、着物に身を包み、穏やかな笑みを向けられる。

「日野量です」

「内田やよいです」

聞いたことのある声に顔を上げてよく見る。え、この人どこかで?もしかしてあの時の――

偶然居酒屋で隣になり、ホテルで介抱してくれた女性だ。名前は聞いていなかったし、スーツ姿と今とでは印象が違うため分からなかった。

互いに目を見開き、固まってしまう。社長とやよいさんの父親は「知り合いだったのか」と喜んだ。「やよいはいつの頃からか仕事ばかりで、恋愛は二の次。男の影なんて全然なかったのに、ひょっとしたら男性が嫌いなんじゃないかと思ったほどだ」

「我々がここに残るのは野暮ですね。近くに行きつけの店があるので紹介しますよ」と、二人はあっという間に出ていってしまった。

「まさかあなただったなんて」

「俺こそ驚きました。まさか内田社長のご令嬢だったなんて」

「あ、そうですよね。イメージと違いますよね。令嬢が私だったなんてがっかりしました」と苦笑いするやよいさんに、俺は即座に否定した。「いえ、全然。むしろあなたで良かったです。俺、かしこまった席がどうも苦手で」

やよいさんは少し驚いた顔をしたが、ニコッと座り姿勢を崩し、首元を緩めた。「よかった。お互い飲み友達ですし、今日はわずにまた飲みませんか?」

「そうですね。お父さんの奢りなんで、好きなだけ飲んじゃってください」

コース料理の合間に次々と酒を注文する。やよいさんは「お父様の会社で働いてるんですけど、私を次期社長にしたいとか言ってるんです。でもその考え方古臭くて嫌なんですよね。娘って言うだけじゃなくて、きちんと能力を見て欲しいっていうか」

「でもやよいさんが優秀じゃなかったら、そもそもそんなこと考えませんよ」

「だといいんですけど」

やよいさんは「システム桜株式会社に務めてるなんてすごいですよね。そんな大きな会社の営業なんて」と言う。俺は本来この場で話すべきではないが、見合いの場で仕事についてごまかすのは良くないと思い、左遷されたことを話した。「ちょっと社内で色々ありまして、営業部から実質窓際部署に移動になりまして」

「だから俺のことはやめておいた方がいいと思います。取引先の令嬢ならなおさらだ」

「どうしてそんなこと言うの?せっかく私たち気が合うのに」

「社長令嬢の婚約者が窓際部署に属してるなんて、世間に広まったらと思うと、やよいさんに迷惑かけたくないんです」

「迷惑なんかじゃないわ。俺が耐えられないんです。普通の結婚じゃないんです。周りが認めません。後でうちの社長にも事情を説明するつもりです。そうすれば間違いなく今回の話はなかったことになるでしょう。そういうわけなので、俺のことは見合い相手ではなく飲み友達として接してください」

「でも、お願いします。やよいさんを大事に思ってるからこそだって分かってください」

やよいさんは表情を曇らせたが、それ以上は我慢してくれたようで、あの夜のように酒を酌み交わした。

それから数ヶ月、俺はやよいさんと連絡を取ることはなかった。事務部から移動もなく、仕事もまともに与えられないまま日々を過ごしていた。噂では営業部に胃嵐さんの息子が中途採用で入社したと聞いた。当然のように胃嵐さんから仕事を受け取り、可愛がられているそうだ。

数日後、オフィス掃除のために営業部の近くに行くと、胃嵐さんの息子の姿が見えた。彼は確かに爽やかな顔つきで、女性社員に人気があるようだ。彼の仕事の中に、元々俺が担当していたものがあった。俺が気づいたものを当然のように手にしている。

これ以上彼を見ていたら心が腐ってしまうと思い、離れようとした瞬間、胃嵐誠と目があった。「君が日野か?君にはいつか礼を言わなければと思ってたんだ」

「礼?」

「ああ、色々もらってしまったからね。仕事とか、内田社長のご令嬢とか」

「なんだって?」どうして彼がやよいさんを知っているのか。俺が驚いていることに胃嵐誠は満足そうにしている。「お前が縁談を断ったんだろ。うちの社長が困っていたらしくてな。そこで俺に話が回ってきたんだ」

胃嵐誠とやよいさんが交際?そうか。それが胃嵐さんの目的だったのだから、当然の流れか。やよいさんは婚約を受けたということなんだな。

その夜、俺は初めてやよいさんと出会った居酒屋に向かった。酒の力でモヤモヤを軽減させたい気持ちもあった。もしも彼女にまた会えたらという未練がましい理由もあったが、そう都合よく行くはずもなく、日付が変わる頃まで店にいたが、やよいさんには会えなかった。

今日はしっかりした足取りで家に向かう。一人暮らしのマンションの前で女性がうずくまっていた。あれはまさかやよいさん?酔って幻覚でも見ているのだろうか。近づいてみても幻覚は消えない。

「やよいさん?」試しに声をかけると反応があった。俺を見上げ、明らかに酒の影響で真っ赤になった顔をしている。「ああ、日野さんだ」

「やよいさんじゃないですか。どうして住所を?」

「お見合いの釣書に書いてあったじゃないですか」

そういえばそうか。とにかくこの状態で放っておくわけにいかない。「とりあえずタクシー呼びますね」

「え、嫌です。せっかく来たんですから一緒に飲みましょうよ。お家に入れてください」

ほろ酔い気分もすっかり覚めてしまう。彼氏がいるというのに何を言っているのだ。「いい加減にしてください。結婚前の女性が男の家に上がるなんて」

「日野さんは真面目ですね。でも日野さんだったらいいな」

「何を言ってるんですか?酔っているにしても、今の言葉は言いすぎだ」

場所が場所なら間違いがあってもおかしくない。明らかに動揺している俺を見て、やよいさんはカラカラと笑った。「日野さんって面白い反応しますね」

「からかわないでください」

「ごめんなさい。でも、一杯だけでいいからお願い」

ふざけているわけでも、酔っているようにも見えない真剣な眼差し。まるで俺に断られたらこの世の終わりかのような気迫さえ感じた。「分かりました」

結局、互いに中杯を一杯ずつという条件で飲み直すことになった。それにしても本当に良かったのだろうか。だって彼女には胃嵐という相手がいるのに。そのことが気になって、つい聞いてしまう。「あの、うちの会社に胃嵐っていうのがいるんですけど、交際されているとか」

先ほどまで朗らかだったやよいさんの目が座る。「胃嵐さんがベコッという音を立てて少しへこんだ。父がどうしても見合いしろって言うから受けたけど、あの人、私が社長の娘だからって理由で態度が挙動不審だし、お金しか見えてないし、本当に不愉快」

「そ、そうなんですか」

「父の顔も立てなくちゃいけないので付き合ってますけど、他の人と何にも変わらない。私を社長の娘として見てるだけ。私がお酒好きってことも、仕事の愚痴があることも何にも知らない。私から言いたいとも思いません」

隣に座っていたやよいさんが俺の肩に頭を乗せた。飛び上がりそうなほど驚いたが、彼女が泣いていることに気づく。「ああ、お金に釣られて寄ってくる人はいっぱいいるのに、私が欲しい人は手に入らないんだもんな。これって結婚するなら日野さんが良かった」

「やよいさん、俺なんて何もいいところが」

「日野さんにいいところがない?自分を過小評価しすぎよ。初めて会った時、私の話を嫌がりもせず聞いてくれたじゃない。見ず知らずの相手よ。それに一緒に泊まっても、日野さんは何にも不純なことをしてこなかった。これってものすごくポイントが高いんだから」

「そうなんですか?」

「当然のことじゃない。そういう誠実なところよ。私、自分の容姿や立場しか見てこないことにうんざりしていたの。そのうち男性そのものに嫌悪感すら抱くようになったわ。だからこれまでまともに誰かと付き合うことなんてしなかった。日野さんのように誠実な対応が当たり前だと思えるのが素敵だと思ってる。そんなところに惹かれたの」

俺が不器用なせいでやよいさんに辛い思いをさせてしまった。申し訳ないのと、そんな彼女を愛しく思う気持ちが混ざり合った結果、俺はやよいさんの肩に腕を回して肩を抱いた。「俺も、自分の立場や容姿を鼻にかけず、自分を貫いているやよいさんが素敵だと思っています」

「日野さん」

「社長の娘だとか、自分の背景にあるものは選べません。でも未来をどうするかは自分自身で選んでいいと思いますよ」

「ありがとうございます」

それから俺たちはゆっくりと会話をし、寄り添い合った。気がつくと朝で、二人で寄りかかりながら寝落ちてしまったようだった。すやすやと眠っているやよいさんを見て、俺はあることを決めた。

数日後、辞表を提出した俺に胃嵐親子が話しかけてきた。「ようやく辞めるんだな。お荷物がいなくなって清々したよ」「よく今まで耐えられたね。俺なら無理だよ」――いつも通りの彼らだが、俺はこれまでのように不快感をさほど感じなかった。

そこに社長がやってくる。「日野君、今までお疲れ様。君がいなくなるのは寂しいけれど、向こうでも頑張ってくれよ」

「社長、お世話になりました」

状況をよく分かっていない親子に社長は説明した。「ああ、日野君は君たちもよく知っている内田社長の元で世話になることになったんだよ」

「はあ?どういうことですか?」

社長の言う通り、俺はやよいさんのいる会社に転職することにしたのだ。やよいさんが家に来た翌日、俺は彼女への思いが諦められず、内田社長の元へ直談判しに行った。「立場上やよいさんとの見合いを断ったが、どうしても彼女と一緒になりたい。どうか許して欲しい」と。

一度俺から断った身なのに、内田社長はあっさり受け入れてくれた。「これまで異性に対して心を閉ざしていたやよいが決めた相手なら不満はない」と。そして俺の営業力を知っていた内田社長は、将来性にも不満はなく、むしろこれを機にうちに来てくれないかと誘ってくれたのだ。

俺にとっては渡りに船である。承諾すると、内田社長はあることを打ち明けられた。「内田社長の会社は現在胃嵐が担当しているらしいのだが、営業部から彼は強引すぎる。自社の利益しか考えていないと不満が漏れていたそうだ。そんな相手を娘の見合い相手にしてしまったことの後悔も感じていたらしい。そもそも胃嵐が見合い相手として現れた時もおかしいとは思っており、本人が『日野は父が左遷させました』となぜか誇らしげに語っていたそうだ。このまま取引先に不利益をもたらすのであれば、どちらの関係も切ろうと考えていたところだったらしい」

さすがにうちの社長にもその話は届いていた。遅れながら事態を把握した社長は「気づけなくて済まなかった」と謝罪し、俺の転職を快諾してくれた。「そういうわけで君たちの行いは確認させてもらった。当事者以外にも証言してくれる人はたくさんいたよ」

「待ってください。私はただ会社のためを思って」

「それが本当なら、優秀な人材を見抜けない君は部長にふさわしくないということだね」

胃嵐さんの言い訳を一蹴した社長は、次に胃嵐誠に向かって言う。「うちの経営理念に反する営業をした上に、危うく大口契約が破棄されるところだった。君たち親子には部署を移動してもらおうと思っている」

「移動って、事務部だ。そこで社会について一から学びなさい」

こうして胃嵐親子は二人仲良く左遷となった。胃嵐さんに動かされていた人事部長も、知理で勝手な人事移動を行っていることが明るみになり、同じく左遷された。

その後も彼らは事務部で大きな顔をしているらしいが、相手にする人間は誰もいないと元同僚から聞いた。

俺の元職場は今の俺の担当先でもある。互いにより良い関係を構築し直すには時間がかかったが、俺を認めてくれた人たちのためだと思うと頑張れた。それに今の俺には、家に帰ると出迎えてくれる人がいる。同僚であり、先輩であり、婚約者でもあるやよいさん。

仕事ばかりに必死になっていた俺と、自分のステータスがコンプレックスになっていたやよいさん。今では互いを尊敬し合い、一人の人間として認め合ういい関係になったことで、悩みの種が薄れている。週末には二人で酒を飲み、腹を割って話すのだ。たまに程よく酔ったやよいさんが「ほら、あの時の続きとかどう?」と言っては俺をどぎまぎさせている。俺は「結婚してから」と素っ気ない返事をするが、彼女はそういうところも愛おしいらしい。

そんな相手と巡り合えた縁に感謝し、これからも大切な人のために自分を高めていきたい。そう思っている。

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