「おばさん、うちの母を見なかった?」4歳の子供が震える声でそう尋ねた時、私はすでに3人を自分の手で葬った女だった。夫を、長男を、次男を。一人で穴を掘り、一人で土をかけ、一人で立ち上がった。そんな私が、なぜ見知らぬ子供を背負って山を登っているのか。それは、あの日、麓の別れ道で女が子を探していると聞いた時から始まった。私は何も言わずに山を降りた。でも、そこにはもう誰もいなかった。そして今、私はこ…
「おばさん、うちの母を見なかった?」 4歳の子供が震える声でそう尋ねた時、おすずはすでに3人を自分の手で葬った女だった。夫を埋めた。長男を埋めた。次男を埋めた。1人で穴を掘り、1人で土をかけ、1人で立ち上がった。手を貸してくれる者はもう誰もいなかった。 石の浜が異国の兵に襲われたあの年、死が立つはずだった場所の真ん中で、守護の使いが声を張り上げていた。 「穀物は焼け。井戸は埋めよ。山に入れ。残していけば、奴らがそれを食って、さらに攻めのぼってくるぞ」 同じ言葉を何度も繰り返しても、人々は初め動かなかった。自分の穀物に火を放てと言われて、たやすく手を出せる者などいようか。誰もが互いの顔を見合ったまま立ち尽くしていた。 その時、一人の男が自分の蔵の戸を開いた。稲束を一束、二束と出し、火打ち石を打って火をつけた。炎が屋根に登ると、隣の家もその隣もまた開いた。あちらの家、こちらの家から稲束が引き出され、庭という庭に火の手が立った。穀物の焦げる匂いが甘く漂い、里一帯に広がった。人々はその匂いを嗅ぎながら、煙が空を覆う中を、人の波が山の方へと押し出されていった。そちらしか行く場所がなかったからだ。 その波の中に、4つになる金太がいた。母の裾を両手で握りしめ、引きずられるように歩いていた。人が多すぎて、子供の目には母の足しか見えなかった。母が急に足を止めてしゃがみ込むと、後ろから人々に押されながらも、子供を自分の膝の間に入れてかばった。子供の目の高さに母の顔があった。汗と埃で汚れた顔だったが、子供を見る目だけは他のどの大人とも違っていた。 母が自分の子育ての紐を歯で噛み切った。糸のほつれる音がした。それを子供の手に握らせた。そして子供の子育ての紐も噛み切り、自分の手に握った。 「母さんはお前のことを思っているからね。お前は母さんのことを思っておいで。なくしても、これを見せれば見つけてもらえるから」 子供が布切れを両手で包むように握った。母が立ち上がり、また子供の手を握った。後ろから人々が押し寄せ、反対側から荷を背負った男が二人の間に割り込んできた。握った手が滑った。母が指先で子供の袖口を掴んだが、それも人並みに引き離された。 子供は大人たちの足の間へ押し出され、転んだ。踏まれた。誰も踏んだことに気づかなかった。子供が這って足の隙間を抜け出し、ようやく立ち上がった時、目の前には見知らぬ背中ばかりが並んでいた。 「母さん」 声は人並みに飲まれた。もう一度呼んでも、誰も振り向かなかった。三度目に呼んだ時、声はもう出なかった。喉の奥で固まったまま、子供はただ口を動かした。 子供が握った拳を開いた。布切れが汗で手のひらに張り付いていた。それをまた固く握り、人波が流れていく方へ、大人たちが行く方へ従って歩き始めた。足元の土が硬く、草鞋の底越しに小石が食い込んだ。それでも立ち止まれば、この波に置いていかれることだけは、4歳の体でも分かっていた。 その人波が向かう山の入り口に、一人の女がいた。松の木陰の下に、土を持った小さな塚が三つ並んでいた。おすずが最後の土を手のひらで押し固めていた。爪の下がすっかり黒ずんでいた。三日かかった。一人で掘った。傍らの風呂敷包みには、死んだ三人が着ていた衣だけが入っていた。穀物は一粒もなく、何日も水しか飲んでいなかった。 おすずは墓の前に立った。膝が折れそうになったが、足に力を込めて堪えた。手を合わせなかった。一度膝をつけば、二度と立ち上がれないような気がしたからだ。ここまで運んできた三人の亡きがらを、ここまで一人で葬った女だった。誰かに手伝ってくれと言えば楽だったろうが、そう頼める相手もすでにいなかった。 里を振り返ると、下の道を人の波が流れていた。荷を背負う人、老いた親を背負う人、泣きながら歩く子供。皆、山の方へ向かってきていた。その中に見知った顔は一つもなかった。おすずは背を向けて山道を登り始めた。 日が傾き始めた頃、おすずが山道を登っていると、後ろでしきりに小さな足音がした。振り返ると、子供がいた。群れからはぐれた子供だった。子育ての片方の紐がなくなり、糸だけが残っていた。 おすずが手を振った。「あっちへ行け」 子供は立ち止まったが、おすずが歩き出すとまた足音がした。三度目に振り向いた時、子供が泣いた。 「おばさん、うちの母を見なかった?」 「見なかったよ」 そう言って背を向け、しばらく歩いた。百歩ほど進んだところで、後ろの足音が消えていることに気づいた。おすずは立ち止まったが、振り向かなかった。そのまま数を数えても、やはり足音がなかった。 引き返すと、子供が道端にうずくまり、片方だけの草鞋を脱ごうとしていた。草鞋の底が抜け、足の裏が擦りむけて血が乾いていた。もう片方の手は固く握り締められたままで、それでは脱げず、片手だけでもがいていた。 おすずが傍らにしゃがみ、子供の足を見た。これでは歩けない。かと言って、死体へ戻すこともできなかった。麓はもう奴らの世だったからだ。 おすずは山の上を見上げた。この山の奥に漁師たちが暮らしているという話を聞いたことがあった。どの辺りかは分からなかった。子供をこのまま置いていくことも、ここへ座り込んで共に朽ちることも、おすずにはできなかった。ただ、一人を失う痛みだけは、これ以上増やしたくないという思いだけが、ぼんやりと胸の奥にあった。 おすずが子供の前に背を差し出した。子供が這い上がってきた。首にすがりつくのに、片手は最後まで拳のままで、手首だけが引っかかった。おすずが立ち上がった。軽かった。それだけ食べていないということで、なお良くないことだった。おすずは何も言わずに山を登り続けた。 日が暮れかけた頃、峠を越えるとくぼんだ場所が現れた。掘っ立て小屋が並び、飯を焚く煙が低く立ち込めていた。老人が一人出てきた。虎蔵爺だった。手には縄を巻きつけ、おすずを上から下まで眺め回した。背に負われた子供を見た。荷を見た。 「ここには穀物はないぞ」 おすずは答えなかった。 「聞こえんのか。ここは12人でどんぐりで冬を越すかどうかだ。2人増えれば14人、皆死ぬぞ」 それは理に叶った言葉だった。何もない暮らしに口が2つ増えるということであり、老人はまず自分が守るべき者たちを先に数えていたのだった。 人々が一人、二人と小屋から出てきたが、誰も近づかず、皆、十歩ほど離れて立った。おすずが荷を抱え直した。七蔵が足を引きずりながら出てきて、戸口の柱を掴んで立ち止まった。おばばが手を前掛けで拭った。 おすずが背から子供を下ろすと、子供がおすずの後ろに隠れた。人々が子供を見た。子供の足の裏を見た。紐がなくなった跡を見た。誰も何も言わなかった。七蔵が唾を飲み込み、その音がはっきり聞こえた。おばばが口を開きかけて、虎蔵爺の方を見て閉じた。虎蔵爺が縄を巻いては解き、巻いては解いた。長い沈黙だった。子供だけがその沈黙を知らずに、おすずの裾を触っていた。 おすずが荷を下ろし、結び目を解いた。着物が広げられた。男物の子育てが一つ、女物の着物が一つ、男物の袴が一つ。どれも傷んでいないものばかりだった。新しくはないが、冬に重ね着するには惜しくないものであった。 虎蔵爺が着物を見て、それからおすずを見た。 「人の着物じゃな。誰か死んだのか」 虎蔵爺は言葉を続けられなかった。この着物があれば、冬を越せる人が増えます。穀物より勝ることもあります。裸で冬山を越す者にとって、あの布一枚が命だったからだ。 おすずが付け加えた。「この子の飯は私が稼ぎます。私は手も足も達者ですから」 虎蔵爺はしばらく立っていたが、己の腰袋を解き、どんぐりを一つ取り出して子供の前に置いた。「番から食わせろ」 するとおばばが自分の前掛けからもう一つ掴み出して置いた。七蔵が足を引きずりながら来て置いた。お松が片手で乳飲み子を抱えたまま、もう一つ掴みを置いた。名も知らぬ人々が一人ずつ近づいて置いていった。どんぐりの落ちる音が一つずつした。子供の膝の前に小さな山ができた。 虎蔵爺が背を向けながら、顎で向こうの橋を指した。「あそこの橋に秋小屋がある。先月、人が出ていった」 そう言って去っていった。子供がそれを見て、おすずを見上げ、どんぐりを一つ拾い自分の口へ持っていきかけて止まった。それからおすずの口に先に入れてやった。おすずの舌にどんぐりの苦みが広がった。子供はそれを見届けてから、ようやく自分の分へ手を伸ばした。 夜になった。松明の火が一つ燃えていた。子供が壁際で丸くなって眠っていた。おすずが子供の子育てを膝に置き、破れを縫った。片方の紐の場所に至って手が止まった。糸屑だけが残って開いていた。引き千切られた跡ではない。歯で噛み切られた跡だった。誰かがこの幼い子の前にしゃがみ込んで、自分の歯で紐を噛み切ったのだと知る手つきで、おすずはその場所を指先で撫でた。 おすずは余った布切れを取り出し、その場所に仮縫いにしておいた。糸をきつく結ばなかった。いずれ正式に縫い直すためだった。子供の手を見た。眠っていても拳のままだった。指を差し入れて開かせようとすると、子供が眠りながらもっと強く握った。おすずは手を引き、代わりに子育てをかけてやった。 おすずは縫い物をすることが恐ろしい人だった。縫えば、またいつか解かねばならないと信じていたからだ。それでもしばらくして寝返りを打ち、子供の方を見た。子供は片手を拳にしたまま、母の日もお手のひらに繰り込ませて眠っていた。松明の火が消えた暗闇の中で、おすずは長いことその小さな拳を見つめていた。 どうして行くに近すぎた?おすずは手足が達者だったから、どんぐり拾いにも山鳥にも山へ出た。子供は足の傷が癒えるまで小屋に置かれたが、おすずが戻る頃には戸口に出て座って待っていた。子供は自分の食べ物を先に人へ差し出した。粥を一晩もらえば、おすずの口へ先に一さじ運ぼうとした。痛くても痛くないと言った。4つで言葉は短く、「おばさん」と呼ぶ声だけがはっきりしていた。 夜には片手に布切れを握って眠り、その手はおすずが子育てを縫う時も開かなかった。ある深く眠り込んだ子供の手をそっと開いてみると、汗で張り付いた布切れがあった。おすずはそれをしばらく見つめ、また子供の手の中に戻して指を丸めてやった。子供が眠りながらそれを固く握った。 昼になると子供は庭を歩き回った。おばばが塩のそばに座っていると、子供がその横にしゃがみ込み、おばばの小話を目をぱちくりさせながら聞いた。おばばは自分の分の塩を粥に少し振りかけてやった。塩が貴重な山だったから、それは大きな心遣いだった。 七蔵は足の悪い男で、座ってする仕事ばかりをしていた。ある日、子供を手招きし、その足を膝の上に乗せて長さを測った。何日か座り込んで、大人の草鞋の半分ほどの小さな草鞋を編み上げた。爪先が可愛らしく狭く上がっていた。子供がそれを履いて庭を駆け回ると、乾いた土の上に小さな足跡が刻まれた。人々がその足跡を見て笑った。七蔵が一番喜び、「合うか合わないか」と何度も尋ねた。 虎蔵爺は子供を見て見ぬふりをしていたが、山から戻る途中、拾った山葡萄を子供の前にぽとりと落としてやった。子供がそれをおすずの手に握らせ、おすずが半分に分けて子供の口に入れてやった。ある夕餉には、おばばが自分の粥を子供の前に押しやり、子供がまた押し返して、一さじずつかわるがわる食べる夜もあった。 この山里に悪い者は誰一人いなかった。何もない暮らしの中でも、幼い者一人を飢えさせはしない人々だった。ただ、おすずだけは相変わらず距離を置こうとした。子供が寄り添っても、慰め方を知らなかった。子供が夜に寝つけず寝返りを打っていると、背をさすってやる代わりに、ただ横に座り手を添えることだけをした。 子供が眠りながら泣く夜があった。しゃっくりのように途切れる鳴き声だった。夢うつつに母を呼ぶと、おすずがその声で目を覚まし、子供を揺り起こさずに手を探して握った。子供がその手を握り返した。拳を作った手ではない。もう片方の手だった。日が開けると、子供はあの泣き声が嘘だったかのように出て、「痛くない、悲しくない」と言った。4歳の子がどこで自分の悲しみを隠す術を覚えたのか。おすずはそれを見るたびに黙って顔を背けた。 秋が深まるにつれ、山の一日はそれぞれの持ち場で回っていった。虎蔵爺は夜明けに罠をやり、七蔵は戸口に座って一日中草鞋を編み、おばばは塩の番をしながら小話を行った。おすずはどんぐり拾いに一倍遠くまで出て、人一倍遅く戻った。金太は柄杓で水を運んだ。小川から小屋まで大人の歩幅で二十歩ほどだったが、子供が汲んで戻る頃には半分もこぼれていた。それでも一日に何度も往復した。誰もそうしろと命じた者はいなかった。 夕方には粥が囲まれ、粥が分けられた。汁は一つ。粥は各自のものだった。金太はいつしかおすずの隣に座るようになっていた。誰がそうしろと言ったわけでもなく、子供が自分でその場所を選んで座り続けた結果だった。 … Read more