あの日、会社を早退してケーキを買って帰ったんだ。結婚記念日だったから。玄関に知らない革靴があって、寝室から声が聞こえてきた。ドアを開けた瞬間、俺の人生は終わったと思った。ベッドの上にいたのは、俺の妻と、俺の上司だった。「剣也が悪いのよ。仕事ばかりで私を放っていたじゃない」妻はそう言い放った。上司は「俺が悪いんだ」と庇った。俺は離婚して会社を辞めた。それから五年、女性と関わるのが怖くて、店員さ…

あの日、会社を早退してケーキを買って帰ったんだ。結婚記念日だったから。玄関に知らない革靴があって、寝室から声が聞こえてきた。ドアを開けた瞬間、俺の人生は終わったと思った。ベッドの上にいたのは、俺の妻と、俺の上司だった。「剣也が悪いのよ。仕事ばかりで私を放っていたじゃない」妻はそう言い放った。上司は「俺が悪いんだ」と庇った。俺は離婚して会社を辞めた。それから五年、女性と関わるのが怖くて、店員さ...

バツイチの俺は、女性と関わることを徹底的に避けていた。可愛くて守ってあげたくて、必死にアピールして元妻と付き合えるようになったのに、一度目の結婚で女性という生き物が怖くなってしまった。そんな俺の前に、天使が舞い降りたんだ。

俺は剣やバツイチの、ごく普通のサラリーマンだ。最初の結婚は、元妻に振り回された挙げ句、トラウマを植えつけられて終わった。俺の見る目がなかったのかな。今となっては、わがままだと思うことが可愛いと思えていたのだから、どうしようもない。

元妻は俺の十歳下だった。年下ならではの可愛さと、守ってあげたいと思わせる何かを持つ、そんな女性だった。出会いは当時勤めていた会社だ。元妻は同じ職場にいて、同僚の男性社員からの人気が高かった。すごく綺麗な顔立ちなのに、愛嬌もある。それが男性たちの心を掴んでいたんだと思う。俺もその中の一人で、元妻に一目惚れだった。

何度もアプローチをして、何度も食事に誘った。今の俺からは考えられないくらい、行動していたと思う。最初は元妻も俺の誘いを拒んでいたけど、次第に心を開いてくれるようになった。それから付き合うようになり、お互いを深く知っていくことになった。

元妻はとてもわがままな性格で、嫉妬深かった。仕事で少し女性社員と話をしただけで、「何を話してたの」「他の女と話さないで」と、そう言ってくる。付き合い始めた頃は、そんな嫉妬も可愛いと思えた。しかし、月日が重なれば仕事にも支障が出てくる。俺はだんだん可愛いと思えなくなり、それどころか鬱陶しいと思うようになった。

「仕事の話をするくらい、どうして我慢できないんだ?」
「仕事の話でも、他の女性と話されるのは嫌なの?」

そんな喧嘩が増えていった。そんなある日、元妻が言った。

「結婚したら、私だけの剣やになるでしょ。そうしたら私も我慢できると思うの」

本当にそうなるのかとは思ったが、仕事への支障が出るのは防ぎたい。それに俺は元妻のことを愛していたし、嫉妬さえなければ俺にはもったいないくらいの女性だ。付き合い始めて二年経っていたし、タイミング的にも悪くないだろう。そう思った俺は、両家の両親と会社に挨拶をし、籍を入れた。この時は同僚や友達から、随分と羨ましがられたものだ。

元妻との生活を始めて半年が過ぎた頃。世間では新婚で甘々な時期と言われていたが、俺は逆に限界を感じ始めていた。俺と元妻は共働きだったから、家事は分担制にしていた。結婚する時に、俺と元妻とで話し合って取り決めたことだ。しかし元妻は、全く家事ができない人だった。というか、やる気がない。分担なんて関係なしに、俺に家事を押し付けてくるようになっていった。

最初の数回はなんとか誤魔化しながらやっていたみたいだが、それすら面倒になったのだろう。料理は毎回スーパーの惣菜を買って皿に盛り付け、メインはレンジでチンするだけのもの。仕事が忙しくて疲れていたんだろうと思うようにしていたけど、さすがに押し付けるのは違うだろう。

惣菜を並べることさえ面倒に思うようになった元妻は、なんやかんやと言い訳をしては、俺に家事を押し付けてきた。そして自分はソファーに寝転んで、スマホをいじるだけ。「分担制にするって決めただろう」と話し合いをしようとしても、元妻は「疲れているの」の一点張りで、話し合いにならない。

どうして俺は、こんな子供みたいな女と結婚してしまったんだろう。その頃になると、俺はこの結婚を後悔し始めていた。

そんな時に、俺は上司から大きなプロジェクトを任され、仕事が忙しくなり、元妻との時間がどんどん減っていった。まあ、俺にとっては好都合だった。正直言って、元妻の世話をするのに嫌気が差していたし、仕事をしている方が気が楽だったのだ。

元妻との時間が減ったことで、気持ちに余裕ができた。俺はたまたま目に入ったカレンダーで、結婚記念日が近いことに気づいた。記念日くらい、元妻との時間を大切にしようと思い、その日は残業にならないように仕事を調整した。

そして結婚記念日当日。俺は元妻に内緒で早く帰る計画を立てた。途中でケーキを買いがてら、デパートのスーパーで元妻の好きな惣菜を買う。家に着き、鍵を開けて中に入った。そして玄関を見ると、見覚えのない革靴が置いてある。元妻も俺にサプライズを用意してくれたのかと思い、ウキウキしながらリビングに入った。

しかし、そこに元妻の姿はない。その代わり、寝室から変な声が聞こえてくる。俺は恐る恐る寝室のドアを開けた。すると、俺たちが普段寝ているベッドの上に、元妻と上司がいたのだ。

その後のことは、途切れ途切れでしか覚えていない。それくらい、俺はショックを受けていた。元妻と上司の裏切り。許せるはずがない。俺が理由を問い詰めると、

「剣やが悪いのよ。仕事ばかりで私を放っていたじゃない。なんで私が悪いって決めつけるの?」

俺は頭が真っ白になる。はあ、俺が悪いって言うのか。それと同時に、女って自分勝手な生き物だという思いが強くなった。上司も元妻のことを庇い、

「俺が悪いんだ」

と、こう言っていた。

その後、俺は元妻と離婚し、会社は退職した。元妻と上司がいる会社で働きたくないし、顔を合わせたくもない。そう思って転職することにした。できるだけ女性との関わりを減らしたいと思った俺は、男性が多い職場へ転職した。女性のことが完全に嫌いというか苦手になり、お店の店員さんでさえ、男性の店員を選ぶようになってしまった。この頃は本当に、女性と関わるのが苦痛だったんだ。今考えると重症だったと思う。

こんな女性との関わりをシャットアウトした俺に、親友の新一がある提案をしてきた。

「お前さ、元嫁のことを引きずりすぎじゃないか。女性との関わりを避けるのはいいけど、あまり楽しくなさそうだぞ」
「マジでもいいんだよ。俺はこのままで」
「そうだ。これから可愛い子たちと合コンがあるんだよ。お前も気分転換に行かないか?」
「はあ。勘弁してくれよ」
「たまにはいいだろう。俺の頼み、聞いてくれよな」

新一にそう言われては断れない。今まで相談に乗ってもらったり、色々してもらった恩がある。こうして新一に強引に合コンに誘われたわけだ。新一は俺の会社の状況をよく知っていて、女性関係が薄い職場だと常々言っていた。だから出会いがないと、俺のことを思って言ってくれているのが分かる。いい親友を持ったと、心からそう思う。思いやりのある強引さだよな。

そして合コン当日。

「うっす」
「こんばんは」

待ち合わせ場所に、知らない男性がいて俺に挨拶をしてきた。そこに新一がやってきて、

「おい、お前と俺だけじゃなかったのかよ」
「悪い悪い。急遽決まったんだよ。悪いやつじゃないからさ」

俺は、このチャラ男の挨拶を受けてビビッと来た。こいつ、俺とは合わないなって。新一が言うには、チャラ男は同じ学校に通っていた同級生らしい。俺も新一と同じ学校に通っていたけど、このチャラ男と付き合ったことはなかった。あの頃は全く関わりがなかったのだから、顔を覚えてなくて当然だな。

とりあえず三人で合コン会場である居酒屋に足を運んだ。すると女性陣はすでに揃っていて、俺たちの到着を待っていた。しかし、変なメンツだな。男性三人に対して女性も三人。ここまではいい。俺たち三人は同年代に対して、女性の方はちょっと違うんだよな。二人は二十代後半くらいの若い子だけど、一人は四十代くらいだった。

若い子に囲まれるって分かっているのに、若作りするわけでもなく、髪はボサボサ。自分磨きをできないほど忙しい人なんだろうか。なんてことを考えていたら、自己紹介が始まった。その四十代の女性は、恵美香さんと言うらしい。二十代女性の話によると、今まで恋愛をしてきたことがなくて、痺れを切らして合コンに誘ったのだそうだ。彼女たちは仕事の仲間らしく、恵美香さんは二人の上司だという。

するとチャラ男がボソッと俺に耳打ちしてきた。

「新一から聞いてるよ。あんたバツイチなんだろ。だったらあの恵美香とかいう四十代、あんたに任せるよ。バツイチのお前は、ああいう奴じゃないと相手にしてくれないだろう。お前にお似合いだよ」

はあ。合コンに積極的でなかった俺は、誰と話そうがどうでも良かった。こうして恵美香さんという四十代と話をすることになったんだ。それにしてもチャラ男は性格悪いな。新一はなんでこんな奴と仲良くしてるのか、本当に不思議だ。

「恵美香さんですよね。俺は剣也です」
「ああ、はい」
「こういうところは初めてですか?」
「はい」
「実は俺も初めてなんで、緊張してます」
「え、剣也さんも初めてなんですか?」
「ええ、今日は友達に無理やり連れてこられたんです」
「私と一緒ですね」

そんな感じで恵美香さんと話をしていたんだけど、俺は意外なことに気づいた。俺は結構漫画を読んだりするのが好きなんだけど、恵美香さんは男性向けの漫画をよく読んでいるという。共通の話題で盛り上がり、めちゃくちゃ気が合った。バトル系の話も分かってくれるし、こんなに気の合う人は、これまでの人生で初めてだ。確かに趣味友はいたことはいたが、それはネット上の人だけ。リアルで趣味友ができたようで、俺はすごく嬉しかった。

恵美香さんも同じように思ってくれていたようで、「ここまで気が合うなんて、奇跡のようですね」なんて言ってた。見た目からは想像できないくらいの笑顔を見せる。そんな表情もできるんだな。意外な思いだった。

漫画だけじゃなく、映画が好きなのも同じだったようで、今度一緒に行こうって話もした。女性とここまで気が合うなんて、人生で初めてだ。そのせいもあって、テンション爆上がりになった。それに、若くて元気な女性と違って落ち着きがあり、大人の女性という雰囲気が俺にはちょうど良かったのかもしれない。

色々と話をしていく中で、食べ物の話にもなったんだけど、気になってる店の話をしたら、恵美香さんも気になってたとか。ここまで気が合うのはすごすぎるってことで、連絡先を交換する。そして後日、一緒にそのお店に行くことになった。お互い恋愛感情はなく、気が合う友達って感じだったな。

合コンが終わって数日後、恵美香さんから予定の連絡が来た。そして、その数日後の休日に行くことが決まり、俺は結構浮かれていた。それが久しぶりの女性との食事だからなのか、趣味友との食事が初めてだったからなのかは分からない。

恵美香さんとの約束の日。俺は朝からどんな服を着ていこうか、めちゃくちゃ迷っていた。正直言って、合コンの時より緊張していて、自分でも驚いてしまう。待ち合わせ場所に行くと、恵美香さんはすでについていた。なんだか、合コンで会った時と印象が少しだけ違う。お洒落をしているっていうのかな。すごく可愛くなっていた。俺は思わず見惚れてしまう。

「えっと、やっぱり変ですよね。あの子たちが、このくらいはしておいた方がいいって言うから。今すぐ着替えてきますね」
「あ、いや、違うんです。つい見惚れてしまって。もう変えないでください」
「もう」

恵美香さんは恥ずかしそうに顔を赤くして、そう言った。

お店に入り、メニューを見ていくと、食の好みまで合うことが判明した。ここまで合うなんて面白いね。なんて二人で笑いながら、食事を楽しんだ。食事をしている時にも話したんだけど、ここまで女性と楽しく話ができたのは、何年ぶりだろう。俺は恵美香さんのおかげで、女性への不信感が拭えつつあった。

やっぱり年下だったからダメだったのかな。もしかしたら年上の方が合っているのかもしれない。そう思うようになった。本当に何もかもが楽しかったんだ。

話の流れで、俺の大好きな漫画の最新刊が出たばかりで楽しみだと恵美香さんに話した。すると恵美香さんは嬉しそうな表情を見せる。その反応を俺は不思議に思った。まあ、好きな漫画の新刊が出たら嬉しいのは当然のことだよな。そう思って、気にも止めなかった。

その後、何度も二人で過ごす日が増え、俺たちの中はどんどん深まった。ある日は漫画喫茶に行って、お互いの好きな漫画を読み合ったり、またある日はカフェに行って好みを言い当てあったり。なんだかんだ、恵美香さんと関わり始めてから、俺の毎日は明るくなった。それまで暗かった俺の人生が、色づき始めたんだ。

恵美香さんもどんどん綺麗になっていって、美意識が強くなったっていうのかな。まあ、綺麗になったんだよ。初めて会った時のボサボサ頭だった恵美香さんとは違って、髪はお洒落に巻いてあって、服装も清楚になって、すごく似合っていた。清楚な服をまとった恵美香さんは、まさに天使だったんだよな。四十代に見えていたのも、すっぴんの上に野暮ったい服を着ていたからなんだと思う。美意識が上がった恵美香さんは、三十代前半に見えるようになったもんな。

その頃から、俺は新一と話すと、気づけば恵美香さんの話ばかりしていた。

「お前さ、恵美香さんのこと、好きになってるんじゃないか?」
「はあ。そんなことあるわけないだろ」
「あるだろ」
「あ、あるかも」

俺は新一の言葉で、恵美香さんへの気持ちに気づかされた。俺、恵美香さんのこと好きかもしれない。

「うん。かもっていうか、絶対だろ」
「でも」
「でも、じゃないぞ」

そう言って、新一は恵美香さんについて話し出した。恵美香さんも仕事してるんだろうということだ。彼女の美意識が上がったことを、職場の男性だって気づいてるぞ。早くしないと取られるんじゃないか。

「ま、まさか」
「まさかじゃないだろ」

こうは言ったけど、ありえない話じゃない。むしろ、ない方がおかしい。焦った俺は、恵美香さんへの告白を決心した。

後から聞いた話だけど、新一も合コンに来た女の子と順調に交際してるらしい。だから恵美香さんの職場に男性がいないことも分かっていたんだ。だけど、自分の気持ちにも気づかず、呑気に構えていた俺の背中を押すために、他の男性の存在をチラつかせたらしい。この時は新一の言葉を鵜呑みにして焦ったけど、後で新一の気遣いに感謝したよ。

そんなある日の出来事だった。その日、俺と恵美香さんは出かける約束をしていた。そして、俺が待ち合わせ場所で待っていると、恵美香さんが十二分ほどして到着した。彼女との待ち合わせは、毎回ワクワクする。

恵美香さんとこれからどこに行こうか相談しているところに、チャラ男に出くわしてしまったのだ。

「はは、熟年カップルのデートですか? 熟年カップルを見たら目が腐るんで、人目のないところでやってくださいよ」

しかも失礼なことを言ってきて。

「れれ、ちょっと雰囲気変わったと思ったけど、整形でもしたんですか? 相当いじったんじゃないですか? 前はブスらしい格好してたのに、その服装どうしたん?」

チャラ男は恵美香さんのことをボロカスに言ってくる。

「その年で若作り頑張られてもさ、痛いっていうかさ。笑っちゃうよね」

黙れ。俺は堪忍袋の緒が切れてしまい、チャラ男に向かって無意識に言葉を投げていた。

「お前みたいに人を外見でしか見れないような奴に、恵美香さんのいいところは分からなくて当然だ。下に見ることしかできない。お前のような男は、一生誰からも相手にされず、一人身で過ごすことになるんだよ」

俺は腹に力を入れ、ドスの聞いた声でチャラ男に言った。するとチャラ男は顔色を変え、そそくさと逃げていった。俺の迫力に負けたのか、それとも自分の行いを恥じたのか。後者は考えにくいけど、いずれにしても追い払うことができた。

「恵美香さん、ごめんね。あんな奴の言うことなんか、気にしなくていいから」
「うん。ありがとう。今の剣也さん、かっこよかったよ」

こう言うと、恵美香さんはあの合コンの日のことを話し始めた。

「あの日、今の男性は私の助手に手を出そうとしたの。でも、あの子はそういうつもりはなかったらしくて、あの男の手を振り払ったようなの。それでも、あのチャラ男はその子にしつこいほど連絡するようになって、私も心配していたの」

なるほどな。チャラ男は俺と恵美香さんが一緒にいる姿を見て面白くなくなり、あんな風に恵美香さんを貶めるようなことを言ってきたのか。

「でも、あんな風に怒ってくれて、嬉しかったな」

可愛らしくそんなことを言う恵美香さんに、俺は自分の気持ちを抑えることができなくなっていた。

「恵美香さん、俺、恵美香さんのことが好きなんです。結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」

俺は勢いに任せて告白してしまったことを後悔しながら、頭を下げて恵美香さんに手を差し伸べた。すると、恵美香さんが焦った様子で、

「あ、あの。返事をする前に、言わなきゃいけないことがあるの」

と、こう言ってきた。真っ先に返事が来ると思っていた俺は、驚きながらも恵美香さんの次の言葉を待った。

「実は私、あの漫画の作者なの。この前の合コンで一緒にいた二人はアシスタントです。それと私、今まで恋愛したことがないんです」
「え、ええ」
「驚くよね。ごめん」

恵美香さんの俺への接し方を見て、男性への免疫がなさそうなのは感じていた。だけど漫画家だってことは全く想像してなくて、その部分だけに驚いてしまったんだ。人気を抱えている漫画家だということもあり、部屋に缶詰状態になることもあるだろうし、女性らしくない部分もあるけど、それでも大丈夫かと聞かれた。

しかし、俺はそんなのどうでもいい。俺は恵美香さんと一緒にいられれば、それでいいんだ。俺は恵美香さんと一緒にいたいんだ。俺の気持ちを伝えると、恵美香さんの方からスッと涙がこぼれた。

その日は、恵美香さんの部屋にお邪魔することになり、作業も見せてもらえた。

「ほ、本当に、本当だったんだな」

俺が感動で震えていると、恵美香さんは頬を緩めて、「内緒だよ」と可愛く言ってくる。

そしてしばらくすると、助手である二人が仕事をしにやってきた。

「せ、先生。まさか」
「あ、こんな私でよければ、よろしくお願いします」
「もちろんです」
「やった!」

恵美香さんのアシスタントをしている新一の彼女は、すごく喜んでいた。何でも彼女は恵美香さんに恩を感じていたらしく、恋愛の話をすると悲しそうな顔をする恵美香さんに、幸せを感じて欲しいとずっと思っていたそうだ。そんなことを涙を流しながら言っていた。

「あの合コンで、私が恵美香さんを見た時に、この人しかいないと直感で感じたんだ」

その直感っていうのも恐ろしいな。って思ったけど、でも、あの合コンがあったから、俺は恵美香さんと出会い、自分を変えることができたんだ。恵美香さんのおかげで、アシスタントの二人とも、今では普通に話すことができる。新一と恵美香さんには、本当に感謝してるよ。

交際を始めて二年後に、俺と恵美香さんは入籍した。早いもので、今年で十年目を迎えた。三人の子供にも恵まれ、幸せに暮らしている。恵美香さんには、一生大切にしなくちゃいけないものを、たくさんもらった。可愛い子供たちと、可愛くて自慢の俺の妻。もうこれは、一生かけて幸せにしていくし、大事にしていきたいと思う。

Thumbnail