同窓会で、かつての同級生に「ただの町工場勤務だろ」と見下され、由香が外国人とのトラブルで困っているのに、誰も助けようとしなかった。俺は迷わず英語で対応し、彼女を救った。その夜、由香から連絡が来て、10年前の誤解が解け始めた。だが、そこに現れた大月が「こいつは俺と結婚する予定なんだ」と由香を連れ去った。由香の会社を追い詰める大月の策略を知り、俺は決意した。俺が海外で築いてきた特許技術と人脈で、…
同窓会の会場に悲鳴が響き渡った。華やかなホテルの宴会場で、外国人の男性が英語でまくしたて、床に転がった荷物を前に一人の女性が途方に暮れている。誰もが遠巻きに見ているだけで、助けようとする者はいない。 その光景を見た瞬間、俺は迷わず足を踏み出そうとした。だが、それを止めるように腕を掴む男がいた。学生時代から自分が一番という態度を崩さなかった、派手なスーツに身を包んだ昔の同級生だ。 「おい、お前はただの町工場勤務だろ?何をしようったって何の助けにもならねえよ」 見下すような視線を投げかけ、あざけるような口調で言い放つ。そんな言葉を聞き流すまでもない。かつて一度は思いを寄せた彼女が困っているのに、理由がいるはずがなかった。 俺は男の手を振りほどき、短く言い返した。「ま、見てろよ」 笑う男など気にも止めず、俺は外国人の元へ駆け寄る。そして落ち着いた声で語りかけた。「すみません。何かありましたか?」 その瞬間、興奮気味だった外国人の表情から剣が消え、少しずつ状況を飲み込んでいく。言葉の行き違いによるトラブルだったと分かれば、誤解を解いて謝罪するだけ。驚いた顔で息を飲む彼女に向かって、俺はそっと笑って見せた。 周りは「なんであいつが」と息を飲んで見守っていた。そして、この出来事がきっかけに俺の人生は180度変わることになる。 俺の名前は坂口俊介。地元の小さな町工場で働いている。作業服に油汚れがつくのは日常茶飯事で、周囲からは「手が真っ黒だな」とよくからかわれる。だけど、この仕事は嫌いじゃない。黙々と機械を扱っていると、不思議と心が落ち着くからだ。 そんな俺の元に、ある日一通の招待状が届いた。高校卒業10周年記念同窓会実行委員会からのお知らせだ。卒業からもう10年か。作業場の片隅で封筒を開きながら、そうつぶやいて思わず手を止める。 ふと頭に浮かんだのは、学生時代に付き合っていた桜場由香の顔だった。地元で有名な桜工業の社長令嬢で、美人で明るく、いつも教室の中心にいた。あの由香と、卒業してからはお互い一度も連絡を取っていない。それどころか、俺はまともに別れの言葉すら交わしていない。 あれから10年。今更どんな顔をして会えばいいのか、正直気が重い。それでも招待状に書かれた日時に合わせてスケジュールを空けることにした。実を言えば、10年ぶりに顔を合わせたい友人もいないわけじゃない。由香のこともずっと気がかりのままだ。 何より、町工場勤務のままだと思われている自分が、今になって同級生たちとどう接するのか、少しばかり興味がある。昔から地味で工場臭いと思われていた俺が、果たしてみんなの中でどう映るのか。 迎えた同窓会当日。俺はいつもと違ってスーツに袖を通した。安物でどこにでもありそうなものだけれど、普段は作業着ばかりの俺にはこれで十分だろう。会場は地元でそこそこ名の知れたホテル。少し場違いな気もするが、ここで知り込んでいても仕方がない。 ホテルの宴会場に足を踏み入れると、そこには懐かしい顔ぶれがずらりと集まっていた。10年という年月は長いようで短い。みんなそれぞれ少し大人びた雰囲気になっているものの、面影は変わらない者も多い。 「あれ、坂口じゃん。久しぶり」 漢字の同級生が声をかけてくる。続けざまに数人が集まってきて、「今はどこで何してんの」と矢継ぎ早に質問が飛ぶ。 「まあ、地元の町工場に勤めててさ。相変わらず油まみれだよ」 そう答えると、「変わらないな。真面目にコツコツやってそうだ」とみんなは口を揃えて笑う。俺自身はその反応を肯定も否定もせず、ただ曖昧に相槌を打つ。10年前からずっとそう思われているのだから、今更訂正したところで何になるというわけでもない。 そんな中、一人ひときわ目を引く女性が視界に入った。明るい茶色の髪、整った顔立ち、そして周りをパッと華やかにするようなオーラ。桜場由香だ。高校の頃と変わらず、いやそれ以上に美しい。思わず小声で名前を呼んでしまう。彼女もこっちに気づいたようで、目が合うと一瞬びくりと体を強張らせ、ぎこちなく笑った。 「久しぶり。元気にしてた?」 「まあ、それなりに。由香は、桜工業だろう?」 「まあね。でも、やっぱり大変だよ」 その声はどこか疲れが滲んでいる。かつての無邪気さは薄れ、肩肘張っているようにも見えるのは気のせいだろうか。二人の間に少しだけ沈黙が落ちた。何を話したらいいのか、10年のブランクは思っていたよりも大きい。 そんな微妙な空気をさらに重くしたのが、後ろから急に飛んできた嫌味な声だった。 「へえ。坂口か」 その声に反射的に振り返ると、大月弘明が仁王立ちしていた。高校時代から常に派手なものを身につけ、目立ちたがり屋のトップを走っていた男だ。 「大月、久しぶり」 なるべく平静を装いながら声をかけると、大月は相変わらずのニタニタした笑みを浮かべ、鼻で笑って言い返してきた。 「よう、坂口。お前、今何してんだよ。まだ油臭い工場で下働きでもしてんのか」 いきなり確信を突くような言葉に、周囲が少しざわつく。俺が口を開くより先に、大月がさらに続けた。 「まあ、お前んとこは昔から町工場だったからな。大した出世もできなきゃ、毎日汚れ仕事してるのが落ちだろ」 露骨に見下す態度は10年前と何ら変わらない。大月はそれを隠す気すらないらしく、腕につけた派手な時計をやたらアピールするように腕を組んだ。 「で、俺はと言うと、親父の会社を継いだんだわ。今じゃグループ全体を仕切る立場でさ。オフィスビルも次々に買収して事業拡大中ってわけ。実質社長と同じようなもんだよ」 大月が継いだのは、地元でもそれなりに名の知れた企業グループだ。建設、不動産、小売りに至るまで手広く手がけており、ここ数年で急速に売上を伸ばしていると聞く。最近は収益の柱を拡大路線に振り切り、参加に進行企業を取り込んでは代々的に宣伝するやり方で存在感を増している。だが、その裏側では強引な買収や圧力をかけた取引など、あまり良くない噂も耳にすることがある。 高校時代から大月のやり方を見ていれば想像はつくが、目立つ数字の裏にはそれ相応の強引な手段があるはずだ。 「そうか。随分と景気がいいみたいだな」 短く返事をすると、大月はさらに鼻を鳴らしてくる。 「よく言われるぜ。『大月さんってやり手ですね』ってな。お前らがちまちま製品作ってる横で、俺たちは何倍何十倍の金を動かしてんだよ。さすがに勝負になんねえだろう」 まるで勝ち誇るように口角を釣り上げて長々と語る大月。俺がどう反応するか見ようとしているのかもしれない。正直腹立たしいが、ここで無粋になるのは得策じゃない。 「そりゃすごいな。俺は地元でぼちぼちやってるだけだ」 肩をすくめて返すと、大月は「だろう」とばかりに薄い笑みを浮かべた。 「ま、せいぜい頑張れよ。前みたいに手が汚れる仕事でも、誰かがやらなきゃ世の中回らねえしな」 昔と変わらない品のない笑い方。高校時代から「自分が一番」という承認欲求に取り憑かれていた男だが、今はそれが企業の看板を背負ってさらに膨れ上がっている。 「由香、お前も大変だったろ。高校の頃はこんな油臭い奴と付き合ってたんだろ」 そう言ってちらりと由香を見る大月の視線は、まるで「今は俺が格上だ」と言いたげだ。昔なら即座に言い返したかもしれない。由香も何かをこらえるように唇を結んでいる。表情が硬いのは気になるが、ここで不機嫌になっても話がややこしくなるだけかもしれない。 俺は拳を握りしめながらも、ごく短く相槌を打つにとどめた。「まあ、過去のことだしな。今はもうお互い関係ないよ」 大月に正面から反論しないでおくのは、今のところ俺自身の意図でもある。どうせ今の大月に言葉は通じない。無駄に目立ってトラブルを大きくするのは得策じゃない。 「ふうん。そうかよ。ま、俺には関係ない話だな」 大月はあくまで「自分以外はどうでもいい」とでも言いたげに肩をそびやかす。その時、由香のスマホが着信音を響かせた。画面を見た瞬間、彼女の目つきが急に変わる。どうやら会社絡みの急な連絡らしい。 「ちょっと会社の方でトラブルみたい。ごめん、すぐ行かなきゃ」 そう言って彼女はバタバタと出口へ向かう。その背中を見送りながら、大月は鼻で笑い、俺を軽く突き飛ばすように通り過ぎた。 「じゃあな、町工場君。くれぐれも俺に迷惑かけるなよ。学生の頃と違って、住む世界が違うんだ。お前が気軽に口聞く相手じゃないってことだからな」 嫌な空気を残しながら遠ざかる大月。その背後には聞こえよがしの高笑いが残る。高校時代から凝り固まっているプライドと、大企業の看板を手にした男の傲りは、10年という月日を経てますます輪をかけているようだ。 それから少しして、俺もそろそろ帰ろうかと思った頃、エントランスの方が何やら騒がしい。見れば、由香が外国人の男性とぶつかってしまい、どうも言葉が通じず揉めているようだ。 … Read more