「お米がない。どうしたらいいの?」…
お米がない。どうしたらいいの?これじゃあ寿司が作れないわ。 ここは東京寿司フェスティバル。日本中から腕に覚えのある職人たちが集まる一大イベントだ。俺は見習いの身分ながら同僚のサポート役として参加していた。しかし予想外のトラブルが待ち構えていたのだ。 「おかしいな。配達されているはずなんだけど」 俺は周囲を見回した。事前に手配していた特選米が見当たらない。係員を呼び止め確認すると、彼らの表情が曇る。 「大変申し訳ございません。配達ミスがあったようで、別の場所に運ばれてしまいました」 配達時刻は明日になるとのこと。彼女の顔から血の気が引いていく。寿司に米は不可欠だ。米なしでコンテストに出るなど考えられない。 「終わりだわ」 彼女は肩を落とし、絶望の声を漏らした。 「これまでの練習、全部無駄になる」 「まだ諦めるには早い」 俺は静かに、しかし確信を持って言った。 「でも、どうやって?米がなくても寿司の本質は変わらない」 俺は手元の材料を見渡した。新鮮な魚介類、野菜、調味料、そして特製のタレやハーブ。欧州料理の技法と江戸前寿司の伝統を組み合わせれば、全く新しい一品が生まれる。時間は限られていた。俺たちは急いで調理に取りかかる。 審査員たちが近づいてきた。彼らの表情には明らかな好奇心が浮かんでいる。 「これは寿司ではないようですが」 会場が息を飲む。しかし、この料理コンテストは俺の隠された過去が明るみに出るきっかけとなる。そして、思いもよらぬ人物との再会が運命を大きく変えることになるのだ。 俺の名前は梅田孝志。32歳。銀座の寿司屋「寿司二」で見習いとして働いている。創業70年を超える名店で、三つ星を獲得したこともある格式高い店。予約は半年待ちが当たり前だ。そんな店で俺は毎日朝から晩まで修行の日々を送っている。いや、修行というより使いっぱしりと言った方が正確かもしれない。 「おい、梅田。まだ床掃除終わってないのか?急げよ」 朝6時、開店前の仕込みの最中、先輩見習いの田島さんから飛んだ。彼は30代後半で、店では絶対的な存在だ。 「すみません。もうすぐ終わります」 俺は慌てて雑巾を絞り直し、板前たちが行き交う通路を拭き上げた。 「梅田。お前、昨日漬けた大根はどうした?」 今度は別の先輩、坂本さんだ。40代半ばで技術は確かだが、気難しい性格で知られている。 「はい、すぐに持ってきます」 俺は急いで冷蔵庫から昨夜漬けた沢庵を取り出した。 「本当に遅いな。お前、本当にやる気あるのか?」 坂本さんは受け取った沢庵を一瞥して鼻で笑った。 「すみません。次からはもっと早く動きます」 「おい、梅田。お前、また包丁の手入れをちゃんとしてないだろう。ちゃんと砥いで返せって言っただろう。こんなんじゃ使い物にならねえよ」 田島さんは俺の前で包丁を振り回した。研ぐつもりだったが、昨夜は閉店作業が遅くなり、疲れて帰宅してしまったのだ。言い訳をする余地はない。 「申し訳ありません。今すぐ研ぎます」 「はあ。全く、お前みたいなのが寿司職人になれるわけないだろ。何がしたいんだ?」 田島さんは捨て台詞を吐いて仕事に取りかかった。 それから1時間後、朝の仕込みが佳境を迎える頃、キッチンの隅で黙々と作業をする小柄な人影が目に入った。もう一人の見習い、久保恵さんだ。俺より2つ年下で、女性としては珍しく寿司職人を目指している。いつも誰よりも早く出勤し、黙々と準備をしている姿をよく見かける。 「久保、その海苔まだ終わってないのか?」 田島さんが厳しい視線を投げかける。恵さんは深々と頭を下げた。 「すみません。もう少しで終わります」 彼女の額には汗が滲んでいた。もう何時間も黙々と作業を続けているのだろう。 「もっと手早くやれよ。女に向いてない仕事だと思ったら、さっさとやめるんだな」 田島さんはそれだけ言うとカウンター内での仕事に戻った。俺は黙って床掃除を続けていたが、恵さんの様子が気になった。彼女もまた毎日のように先輩たちから厳しい言葉を浴びせられている。特に女性であることを理由に露骨に軽視されることもある。 「女が寿司を握るなんて笑わせるな。お客さんは女の握った寿司なんて食いたくないんだよ」 そんな言葉が飛び交う中でも、恵さんは黙々と働き続けていた。その姿に俺は何か強い意思を感じていた。 「海苔なら俺も手伝いますよ」 俺は床を終えて恵さんに声をかけた。彼女は少し驚いた様子で顔を上げる。 「ありがとう。でも、私一人でやります。梅田さんにも仕事があるでしょ」 彼女は毅然とした態度で言った。そんな彼女の姿勢に俺は少し感心した。弱音を吐かず、自分の仕事を全うしようとする強さがあった。 「わかりました。でも、何か手伝えることがあったら言ってください」 俺がそう言うと、彼女は小さく頷いた。 昼前の一時、俺は出汁を終えて店の裏口から戻ってきた。その時、キッチンの隅で恵さんが一人何かに苦戦している様子が目に入った。近づいてみると、彼女は大量の貝を磨いていた。 「これ、全部やるんですか?」 俺が声をかけると、彼女は少し驚いた様子で顔を上げた。 「あ、梅田さん。はい。今日のディナーで使う貝です。全部磨いておくように言われて」 そう言って彼女は苦笑した。手にはすでに擦り傷ができていた。 「大変ですね。手伝いましょうか」 「でも、梅田さんも忙しいんじゃ」 … Read more